問題解決型の研究と価値創造型の研究

研究には色々なパターンがあります。ここでは、申請書を書くうえで特に意識しておきたい分類として、「問題解決型の研究」と「価値創造型の研究」について説明します。どちらが優れているという話ではありませんが、申請書としての書きやすさや、審査員への伝わりやすさには違いがあります。

問題解決型の研究

問題解決型の研究とは、すでに存在する具体的な問題点、弊害、デメリットの解決を目指す研究です。簡単に言えば、1を10にするような研究です。すでに何らかの問題があり、その問題によって誰かが困っている。そのため、その問題を解決する必要がある、という流れで研究の必要性を説明します。

たとえば、以下は問題解決型の研究です。

例文
  • ごみ処理時のダイオキシンが公害を引き起こしているから焼却方法の改善が必要だ(だから研究する)
  • 大学生の学習意欲を低下させる要因ははっきりしておらず、効率の良い教育方法はいまだ確立されていない(だから本研究で要因をはっきりさせる)

問題解決型の研究は、申請書として比較的書きやすいという特徴があります。なぜなら、すでに問題が存在しており、その問題を解決する必要性を説明しやすいからです。多くの人が困っている問題であれば、それだけで一定程度、研究の価値が担保されます。審査員も、「なるほど、それは解決する必要がある」と理解しやすくなります。

ただし、問題が存在していれば何でもよいわけではありません。研究されていない問題が、必ずしも研究する価値のある問題とは限らないからです。明らかに研究する価値のない問題もありますし、重要ではあっても現時点では解決方法が存在しなさそうな問題もあります。

たとえば、以下の問題も未解決ではあり未解決ではあります。しかし、それが不明であることによって誰が困っているのか、また科学的にどのような価値があるのかはかなり疑問です。少なくとも、研究費を使って取り組むべき問題として説明するのは難しいでしょう。「宇宙の果てに直接到達する方法は存在しない」という問題も、非常に大きな問いではありますが、現時点で具体的な解決のアイデアがなければ、申請書の研究計画としては成立しにくくなります。

失敗例
  • 私の家の庭石の産地は不明である(不明であることに対して誰も何も困っていないうえに、科学的価値が高い研究になるとも思えない)
  • 宇宙の果てに直接到達する方法は存在しない(現時点で、宇宙の果てに到達する、具体的なアイデアは無い)

つまり、問題解決型の研究では、「何が問題なのか」「誰にとって問題なのか」「なぜ今解決する必要があるのか」「申請者はどのように解決できるのか」を明確に示すことが重要です。

価値創造型の研究

問題解決型の研究の対極にあるのが、価値創造型の研究です。価値創造型の研究とは、まだこの世にない価値を創造する研究です。簡単に言えば、0を1にするような研究です。すでにある問題を解決するというより、これまで存在しなかった概念、方法、技術、制度、使い方、見方を生み出すことを目指します。

たとえば、「タッチパネルを搭載した電話機を開発することで、電子辞書、メモ帳、PCなど、さまざまな電子デバイスを統合して扱うプラットフォームになると考えられる」という場合は、価値創造型の研究に近い発想です。既存の問題を一つ解決するというより、新しい使い方や新しい価値を生み出そうとしています。また、「現代の価値観に沿った新たな就労モデルが求められている」というような研究も、既存の制度の不具合を解決する面を持ちながら、新しい価値や仕組みを提案するという点では価値創造型の要素を含んでいます。

例文
  • タッチパネルを搭載した電話機を開発することで、電子辞書やメモ帳、PCなど様々な電子デバイスを統合して扱うプラットフォームになると考えられる。
  • …であることから、現代の価値観に沿った新たな就労モデルが求められている。

ただし、まだこの世にないものが、必ずしも価値のあるものとは限りません。これは問題解決型と同じです。「誰もやっていない」「まだ存在しない」というだけでは、研究する理由にはなりません。

たとえば、「これまで雑草の飛翔能について検討された事例はなく、したがってロケットの動力源になる可能性は未検証のままである」という研究は、確かにまだ誰もやっていないかもしれません。しかし、それは明らかにくだらなすぎて研究されてこなかっただけかもしれません。まだ存在しないもの、まだ検討されていないものが、そのまま価値になるわけではないのです。

失敗例

これまで雑草の飛翔能について検討された事例はなく、したがってロケットの動力源になる可能性は未検証のままである(明らかにくだらなさすぎて、研究されてこなかっただけである)。

価値創造型の研究では、問題解決型以上に、研究の価値を丁寧に説明する必要があります。問題解決型であれば、多くの人がすでに困っている時点で、ある程度の価値は伝わります。しかし価値創造型では、そもそもその価値がまだ共有されていません。審査員に対して、「なぜそれが新しい価値と言えるのか」「それが生まれると何が変わるのか」「誰にとって意味があるのか」を納得してもらう必要があります。

基本的には同じ書き方だが、書きやすいのは問題解決型

問題解決型の研究も、価値創造型の研究も、申請書の基本的な書き方は大きくは変わりません。背景を示し、現在の問題や不足を説明し、本研究の目的と方法を述べ、その結果として何が明らかになるのか、どのような価値が生まれるのかを説明する。この基本構造は同じです。

ただし、書きやすさ、伝わりやすさという点では、問題解決型の方が圧倒的に有利です。問題解決型では、「困っていることがある」「だから解決する」という流れを作りやすく、審査員も研究の必要性を理解しやすいからです。問題が明確であれば、研究目的も立てやすく、研究計画も説明しやすくなります。

一方で、価値創造型の研究では、まだ存在しない価値を審査員に想像してもらう必要があります。これはかなり難しい作業です。申請者にとっては魅力的なアイデアでも、審査員がその価値を共有できなければ、「なぜそれを研究する必要があるのか」が伝わりません。そのため、価値創造型の研究では、背景説明や将来像の提示をより丁寧に行う必要があります。

科研費.comでは、基本的には問題解決型の研究を念頭に置いて説明していきます。多くの申請書では、問題解決型として書いた方が、審査員に伝わりやすく、構成もしやすいからです。ただし、価値創造型の研究が悪いという意味ではありません。価値創造型の研究で申請書を書く場合には、「何が問題なのか」を直接示す代わりに、「どのような新しい価値が生まれるのか」「その価値がなぜ重要なのか」「それによってどのような研究や社会の変化が起こるのか」を、問題解決型以上に丁寧に説明する必要があります。

申請書を書く際には、自分の研究が問題解決型なのか、価値創造型なのかを一度考えてみるとよいでしょう。問題解決型であれば、何を解決するのかを明確にする。価値創造型であれば、何を新しく生み出すのか、その価値をどう審査員に納得してもらうのかを考える。この違いを意識するだけでも、申請書の書き方はかなり整理しやすくなります。