研究テーマが選べない、興味を持てない時に

これまでに、おもしろい研究テーマの選び方について説明してきました。しかし、研究室の方針であったり、プロジェクト雇用であったり、テーマがあらかじめ決められた研究分野に応募する場合であったり、と研究テーマを自由に選べないケースは少なくありません。

しかし物は考えようで、なんでも自由に決められるというのは逆に不自由です。ある程度の制約がある方が、より良い研究テーマになることがしばしばあります。テーマを選べないことをネガティブに考えず、より面白くするためにはどうしたら良いかという前向きな姿勢で研究計画を練って下さい。

具体的な研究テーマから思考をスタートする場合には、これまでと発想を逆転させる必要があります。一般に申請書は、「一般的な研究の背景・重要性(一般的な研究領域)」→「本研究に関する背景な研究(専門的な研究領域)」→「問題点の指摘と解決するためのアイデア(問題提起・解決方法)」→「具体的な研究目的・計画(個別の課題)」という流れで書き進めます。

しかし、実際の研究テーマを考える時には、こんなに理路整然としたものではなく、「個別の課題」からスタートして「一般的な研究領域」へと拡張していく、すなわち、ある研究がどんな風に役立つのかを事後的に考える逆の作業を行うことがほとんどです。

1.個別の課題

研究テーマが与えられている場合は、ずばりそのものが相当しますので悩む必要はありません。大きく研究内容が決まっているようなトップダウン型の研究種目の場合でも、募集領域とあなたのこれまでの研究が完全に合致しているのであれば悩むことは無いでしょう。

問題は募集領域とこれまでの研究が少しズレている、もしくは一見関係ないように見える時です。これは悩ましい問題ですが、見方によってはチャンスです。

価値のある研究 = 問題の価値 × どれくらい理解できたか( × かかる時間 × 多様性

を思い出してください。「ズレている」「一見関係ない」とは、まさに多様性のことですので、まずは、これまでの研究をそのまま研究課題としておきます。ここは後で修正が必要になるかもしれませんので、あくまでも仮の課題です。

2.問題提起・解決方法

次に、「なぜその研究を行おうと考えたのか」「なぜその研究を行うことが重要なのか」「そこに、どのような工夫(特色)があるのか」を考えます。ここが最も難しいかもしれませんので、さらに分解して見ていきます。

なぜその研究を行おうと考えたのか

1で決めた研究課題を行おうと考えるからには何か動機があるはずです。ただし、面白い研究とは何かで述べたように、わかっていなかったから、できそうだから、同様の現象が知られているから、というだけでは理由になりません。仮にそのような動機で始まったテーマを与えられている場合であっても、申請書を書く際には別の理由を考えるべきですし、そうした理由に基づいてこれからの研究を行うべきです。

なぜその研究を行うことが重要なのか

言い換えれば、その研究の完成によって当該研究領域・周辺関連領域・社会にどのようなインパクトを与えられるかということです。オズボーンのチェックリストも活用して、自分の研究を様々な角度から眺めてください。

特に、研究領域があらかじめ設定されているような場合は、多様性を意識して、汎用性・普遍性・拡張性あたりを強調するとうまく行くかもしれません。

インパクトのある理由が思いつかないようであれば、1に戻って研究課題を再設定した方がよいでしょう。それが難しいようであれば、ここで頑張るしかありません。

そこに、どのような工夫(特色・独自性)があるのか

どんなに素晴らしい研究課題であったとしても、申請者に勝ち目(アドバンテージ)が無ければ、それは絵に描いた餅です。

具体的な研究テーマを与えられた人は、ここが一番の頑張りどころです。実験手法・材料・アイデアなどでオリジナリティを出せるようにします。ここでも、オズボーンのチェックリストは有効です。異分野からの技術導入、違う切り口から現象を解析するなどは比較的簡単にオリジナリティを出せるのではないでしょうか。

3. 研究領域の設定

ここに関しては大きく2つの方針に別れます。一つは、これまでの一般・専門領域の中で独自性を出すという考え方、もう一つはこれまでとは異なる一般・専門領域に飛び込むことで独自性を出すという考え方です。

これまでの研究領域の中で独自性を出す

この場合は、研究領域に関しては従来通りですが、解析技術・コンセプトなどで独自性を出すことで面白い研究にしていきます。自分の本来の研究を、与えられたテーマ・研究領域に寄せにいくイメージです。あなた(あなたのいる研究室)が経験のある分野ですので、研究は進めやすく、おすすめです。

これまでとは異なる一般・専門領域に飛び込むことで独自性を出す

こちらの場合は、研究領域を変えてしまうことによって、これまでと同じ解析技術・コンセプトであるにもかかわらず独自性を出すパターンです。こちらは解析技術やコンセプトを固定して、異分野を渡り歩くイメージです。顕微鏡技術とか有機合成のような普遍的な現象などはどの分野であっても使えますので、親和性が高そうです。こちらの場合は、ともすれば技術屋さんになってしまい、解きたい問題に対する首尾一貫性が生まれにくいという弊害があります。対称分野を変えたとしても共通する根源的な問題を核に据えないと、これまでの研究との関係が書きにくくなってしまいます。

研究テーマに興味を持てない時に

とはいえ、研究を初めたばかりの場合は期待も大きく、本意ではない研究テーマに対して興味を持てないというのは、よくある悩みです。ただし、このサイトを見ている以上、申請書を書こうというモチベーションはあるという前提で解説します。

研究の重要性がわからない。枝葉ばかりやっているような気がする。

誰しもが通った道だと思います。その感覚の半分は当たっていますし、半分は当たっていません。自分自身が研究の重要性をわかっていないということは、それをうまく説明できないということであり、申請書においては致命的です。

まずはなぜ研究の重要性が理解できないのか理由を明らかにしましょう。

知識不足

研究とはそれ単独で存在するものではなく、過去の研究の流れを引き継いで、そこに新たなものを付け加える作業であるため、過去にどういう研究がなされており、何がわかっていて何がわかっていないのか、その結果何が問題となっているのかを理解しないことには、研究の重要性は理解できません。関連する論文や資料にもう一度目を通し、研究の流れを理解しましょう。

コミュニケーション不足

おそらくあなたはテーマの設定者の真の意図を理解できていません。まずは研究の意図を穏やかに聞いてみましょう。そして説明されたことを一旦は受け入れてよく考えてみましょう。私の周りにも、自分だけが不当に虐げられていると感じ、教員や先輩と険悪になってしまい研究をやめた人が多くいます。優秀な人もいただけにもったいないなと思います。まずは理解する努力をして、調整して、互いに歩み寄ることが重要です。どうしても納得できないなら、予備データや文献を提示しなるべく論理的に相手を説得することを試みましょう。

しかし、もしかしたらあなたの感覚は当たっているかもしれません。あなたにうまく意図を説明できないような研究テーマだとしたら、それは本当にテーマがしょぼい可能性もあります。そうだとしたら、あなたの感覚は正常です(おめでとう)。ただし、まずは目の前のテーマを片付けてからの方が良いでしょう。どんなテーマも突き詰めて考えると粗があったりするものです。完成させないうちに、「これはテーマがしょぼいから」といった理由で次に行くと、移った先でも同じことを繰り返すことになります。この先、どんどん自分でテーマを決めることができるようになりますし、そうであることを求められます。まずは研究を完成させるという感覚を身につけてください。これはトレーニングです。

社会に役立たないように思える。社会への応用を考えていない。

理想が高いと社会への貢献を目指したくなります。基礎研究の人は応用が見えないと嘆き、応用研究の人は使いみちが見えないと嘆きます。研究の成果を社会に役立てるのは難しく、おそらくあなたが考えているよりはるかに複雑な過程を経ないとたどりつけませんが、研究を始めたばかりの頃はそこに思い至らず、華々しい部分だけを見てしまいます。

おそらく「基礎研究は社会に直接は役立たないが、そういった蓄積が重要だ」的な言説は見聞きしたことがあるでしょうし、それはその通りだと考えているでしょう。しかし、このことを実感として理解できるのはかなり先になると思います。自分の成果を社会に役立てようと思うならば自分自身が動くしか無く、誰かがやってくれることはほとんどありません。その際に、ものを言うのは基礎データの蓄積です。遠くのゴールを目指すのは良いことですが、まずは足元を見ましょう。本気であれば、この先チャンスはいくらでもあります。

タイトルとURLをコピーしました