具体的な申請書作成スケジュール

どれだけ良い申請書が書けていても、締切を過ぎてしまえば審査してもらえません。申請書を書くと決めたら、まず確認すべきなのは締切日です。
ここでいう締切日には、助成機関が定める正式な締切だけでなく、大学や研究機関の事務締切、e-Rad上の提出期限、所属部局内の確認期限なども含まれます。実際には、外部の締切よりも早く、機関内の提出期限が設定されていることが多いため、必ず最初に確認しておきましょう。
以下では、締切日の2か月前から準備を始める場合の、おおまかなスケジュールを示します。
締切日の2か月前:テーマと構成を考え始める
いよいよ申請書に手を付け始める時期です。この段階では、まだ本文を書き込む必要はありません。まずは、どういった内容で申請するのかを漠然と考え始めましょう。関連する文献を調べたり、最近の研究動向を確認したりするのもこの時期です。
どうせ後で大幅に見直すことになります。最初からきれいに整理しようとせず、まずは思いついた言葉の切れ端、研究の売りになりそうな点、気になっている問い、使えそうなデータ、関連しそうな先行研究などを書き留めていきましょう。
この段階では、マインドマップやKJ法のようなアイデア整理の方法を試してみるのも有効です。
マインドマップ()
思考を整理し、発想を豊かにし、複雑な概念をコンパクトに表現するためのマインドマップは、用紙の中央に議題となるメインテーマを配置し、そこから連想されるアイデアや情報を線でつなげながら、分岐させるように放射状に展開していく思考方法です。
MindmeisterやXMindのようにフリーでも使えるソフトも多く、人気のある方法です。
KJ法
バラバラな「思いつき(アイデア)」は頭の中にあちこちにありますが、体系だったものではありません。KJ法では、思いつきという形で頭の中に浮かんださまざまな事象を付箋紙などに書き出します。それらをたくさん並べ、同じカテゴリーに属するものをグループ化していき、それ以上はまとめられないというところまでグループ化した時点で、それぞれのグループに集められたカードに書かれている内容をつなげることで、漠然とした思いつき間の法則性や関連性を見出し、有用なアイデアへと昇華させる方法です。
miroにはKJ法のテンプレートがあるので、それを使っても良いかもしれません。
この時期の目標は、完成度の高い文章を書くことではありません。申請書の材料を集め、研究の方向性を見えやすくすることです。
締切日の1.5か月前:書きやすいところから本文を書き始める
この時期になったら、もう先延ばしにはできません。研究の背景、これまでの研究成果、研究目的など、書きやすいところから本文を書き始めましょう。
最初から順番通りに書く必要はありません。背景が書きやすければ背景から、方法が固まっているなら方法から、研究の売りが明確なら独自性から書いても構いません。大切なのは、とにかく申請書の中身を少しずつ埋めていくことです。
細かい表現や体裁は後で直せます。この段階では、文章の美しさよりも、まず一通り形にすることを優先してください。
締切日の1か月前:50%の完成度でよいので全体を作る
締切日の1か月前には、申請書全体が一通り形になっていることが理想です。完成度は50%程度で構いません。粗くてもよいので、背景、目的、方法、独自性、期待される成果などがすべて埋まっており、最低限いつでも提出できる状態に近づけておくことが重要です。
申請書に完璧はありません。どれだけ時間をかけても、迷いや修正したい点は必ず出てきます。そこにこだわりすぎるあまり、申請のチャンスを逃してしまう人を数多く見てきました。応募すると決めたのであれば、まずは提出できる形にする。完璧な申請書を目指すより、提出できる申請書を作ることが先です。
ここから2週間ほどは、ブラッシュアップの時期に入ります。まず確認すべきなのは、全体のロジックです。研究の背景から目的へ、目的から方法へ、方法から期待される成果へと、読み手が無理なく理解できる流れになっているかを確認します。
思いつくままに書いた文章は、どうしても自分中心になりがちです。後で読み返してみると、説明が足りない、論理が飛んでいる、審査員に伝わる形になっていない、と気づくことがあります。時間に余裕があるということは、自分の頭を一度リセットして読み直す機会があるということです。
この段階で、完成度を80%程度まで持っていくことを目指しましょう。少なくとも、研究の大きな流れや論理構成は、この時期までに固めておきたいところです。
可能であれば、この段階で上司、同僚、共同研究者などに読んでもらうとよいでしょう。細かな言い回しよりも、「何が伝わらなかったか」「どこで読む手が止まったか」「研究の売りが伝わったか」を確認してもらうことが重要です。
締切日の2週間前:内容よりも見せ方と読みやすさを整える
締切まで2週間になると、いよいよ締切日が見えてきます。この段階では、大幅な構成変更よりも、読みやすさや見せ方の改善に力を入れます。
表記の揺れを直す、図のクオリティを上げる、見出しを整える、行間やフォントをそろえる、文章表現を微調整する、誤字脱字を確認する。やるべきことは山ほどあります。ひとつひとつは小さな作業に見えるかもしれませんが、こうした積み重ねによって、申請書全体の印象は大きく変わります。
研究内容が同じであれば、誤字脱字が少なく、体裁が整っており、読みやすい申請書の方が良いに決まっています。これは研究の本質とは直接関係ないように見えるかもしれません。しかし、審査員も人間です。読みにくい申請書よりも、読みやすい申請書の方が内容を理解しやすく、印象も良くなります。
内容が大きく変わらない段階まで来たら、読み手に余計な負担をかけないことを意識しましょう。
締切日の1週間前:一度距離を置いて頭をリセットする
締切日の1週間前には、可能であれば申請書から少し距離を置きましょう。もちろん、完全に放置するという意味ではありません。一度別の仕事をしたり、研究に戻ったりして、頭をリセットする時間を作るという意味です。
申請書を書き続けていると、自分の文章に慣れてしまい、説明不足や論理の飛躍に気づきにくくなります。少し時間を置くことで、初めて読む人に近い目線で読み直せるようになります。
別のことをしている間に、ふと良い表現や構成の改善案を思いつくこともあります。締切直前まで詰め込み続けるよりも、少し余白を作った方が、結果的に良い修正ができることがあります。
締切日の2日前:審査員のつもりで最後に読み直す
締切日の2日前には、最後の見直しを行います。この段階では、新鮮な気持ちで申請書全体を読み直してみましょう。
自分が審査員だったら、この申請書をどう読むか。背景は理解できるか。研究目的は明確か。方法は目的に対応しているか。独自性は伝わるか。期待される成果は魅力的か。そうした観点で確認します。
場合によっては、「自分の研究に好意的ではない人が読む」と想定してみるのも有効です。好意的な読者なら補って読んでくれる部分でも、審査ではそうとは限りません。少し厳しい目で読んでみることで、説明不足の箇所に気づきやすくなります。
ただし、この段階での大幅な改稿は危険です。構成を大きく変えると、かえって論理が崩れたり、修正漏れが出たりすることがあります。基本的には、微修正にとどめましょう。その一方で、誤字脱字、表記ゆれ、図表のミス、番号のずれなど、細かな問題は必ず直します。
締切日の1日前:前日提出を目標にする
慌てると、ろくなことは起こりません。申請書は、できれば締切日の前日までに提出することを目標にしましょう。
提出直前には、ファイルの形式、ページ数、文字数、添付書類、研究費の内訳、所属機関の承認手続きなども確認する必要があります。本文だけが完成していても、提出作業で思わぬ時間を取られることがあります。
また、提出してから致命的なミスに気づくこともあります。前日に提出しておけば、修正できる可能性が残ります。締切当日の提出では、その余裕がありません。
最後の最後で大切なのは、良い申請書を書くことだけではなく、確実に提出することです。
提出直後:修正できる余地があるか確認する
提出した直後は、念のため、もう一度だけ内容を確認しておきましょう。提出後にミスに気づくことは珍しくありません。
ただし、修正できるかどうかは制度や所属機関の運用によって異なります。助成機関の正式な締切、大学や研究機関の事務締切、e-Rad上の状態などによっては、差し戻しや再提出が可能な場合もありますし、できない場合もあります。必要があれば、早めに事務担当者に確認しましょう。
ここで重要なのは、「どうせ何とかなる」と考えて締切を軽く見ることではありません。むしろ、修正の可能性を残すためにも、早めに提出しておくべきだということです。
提出後:さっさと次に進む
これ以上修正する機会がないのであれば、提出後に気にし続けても仕方ありません。もちろん、ミスがなかったか、もっと良くできたのではないかと気になる気持ちはよくわかります。しかし、過去を変えることはできませんし、審査結果を完全に予測することもできません。
できることは、今の研究を進めること、次の申請書に備えること、今回書いた申請書を次に活かすことです。
申請書は、一度提出して終わりではありません。今回の申請書で使った文章、図、研究の位置づけ、審査を通じて見えてきた課題は、次回以降の材料になります。結果が出たら、採択・不採択にかかわらず、どこが良かったのか、どこを直すべきなのかを振り返ればよいのです。
提出したら、いったん忘れて次に進む。精神衛生上も、その方が健全です。申請書作成は長期戦です。一回ごとの結果に振り回されすぎず、書き続けることが大切です。
修正のチャンスがこれ以上無いのであれば、気にするだけ時間の無駄です。さっさと次の申請書を書くか、研究を進めるかしましょう。過去を変えることはできませんし、未来を完全に予想することもできません。できることは、今を頑張り、より良い未来になる可能性を上げるようにすることだけです。さっさと忘れて次に進むことが精神衛生上重要です。