どんな研究テーマが「おもしろい」のか
どのようなテーマであれば、おもしろい研究テーマ、あるいは良い研究テーマと言えるのでしょうか。
自分が実験をしていて楽しいテーマでしょうか。誰も解いていない大きな未解決問題でしょうか。それとも、流行している分野のテーマでしょうか。
もちろん、研究者自身が興味を持てることは重要です。自分がまったくおもしろいと思えない研究を続けるのは難しいでしょう。また、大きな未解決問題に挑むことにも価値があります。しかし、それだけでは良い研究テーマとは言えません。
研究は、申請書による研究費獲得、研究の実施、論文発表というサイクルの中で進んでいきます。研究費を獲得するプロセスが組み込まれている以上、自分の興味だけを満たす研究では、いずれ行き詰まってしまいます。研究者として研究を続けていくためには、自分がおもしろいと思うだけでなく、他者にとっても、分野にとっても、場合によっては社会にとっても価値のある研究を考える必要があります。
もちろん、「研究者の純粋な興味に基づく研究を推進すべきだ」「社会の役に立つことばかりを前面に出すと、基礎研究が近視眼的になる」という意見はその通りです。基礎研究には、すぐには役に立たないからこそ重要なものも数多くあります。
しかし、プロの研究者を目指すのであれば、与えられた環境の中で最大のパフォーマンスを発揮することを考えなければなりません。自分の興味を大切にしながらも、それを他者に伝わる価値へと変換する必要があります。
自分が楽しいだけでは足りない
「自分が実験していて楽しい」という感覚は、研究を続けるうえで大切です。研究は長期戦ですから、本人に興味がなければ続きません。
しかし、自分が楽しい研究と、世の中に価値のある研究は必ずしも同じではありません。本人にとってはおもしろくても、審査員や分野の研究者から見ると、「それで何がわかるのか」「なぜ今それをやる必要があるのか」が伝わらないことがあります。
研究費を申請する以上、研究テーマには外部に説明できる価値が必要です。自分が知りたいというだけではなく、その問いが分野の理解をどう進めるのか、どのような新しい概念や方法につながるのか、なぜ限られた研究費を使って取り組む価値があるのかを説明しなければなりません。
本当にお金持ちで、趣味として研究を続けるのであれば、自己満足の研究でも問題はありません。しかし、多くの研究者はそうではありません。研究費を獲得し、成果を出し、次の研究につなげていく必要があります。
その意味で、良い研究テーマとは、自分にとっておもしろいだけでなく、他者にもその価値が伝わるテーマです。
「未解決問題」なら何でもよいわけではない
では、大きな未解決問題に取り組めばよいのでしょうか。
たとえば、「宇宙の果てを知りたい」という問いは、多くの人にとって魅力的です。もし解決できたら、非常に大きなインパクトがあるでしょう。私も知りたいです、宇宙の果て。
しかし、どれだけ魅力的な問題であっても、それだけでは研究テーマとして十分ではありません。現在の技術や知識では解けない問題は数多くあります。解決できるとしても、膨大なコストや非常に長い時間が必要な場合もあります。
ある問題が未解決である背景には、多くの場合、それなりの理由があります。技術的に難しい。観測が難しい。理論が足りない。実験系がない。十分なデータが得られない。誰も重要性に気づいていない場合もありますが、単に難しすぎる、あるいは解く方法がまだ存在しない場合もあります。
そのため、他の人が解けなかった未解決問題に取り組むのであれば、何らかの勝算が必要です。
新しいアイデアがある。独自の実験系がある。予備データがある。既存の方法では見えなかったものを見られる技術がある。異分野の概念を持ち込むことで突破口が見えている。そうした具体的な見込みがあって初めて、大きな未解決問題に挑む意味が出てきます。
時間や資金には限りがあります。具体的なアイデアや傍証、予備データがないまま、テーマの魅力だけで巨大な問題に手を出すのは危険です。テーマが魅力的であるほど撤退が遅れ、取り返しのつかないことになる場合もあります。
「まだ誰もやっていない」だけでは弱い
申請書でよく見かけるテーマ設定に、「〇〇はまだ明らかにされていないので、申請者が初めて取り組む」というものがあります。
しかし、これだけでは不十分です。
研究の本質は、まだわかっていないことを明らかにすることです。したがって、「まだ誰もやっていない」こと自体は、研究テーマとして当然の出発点にすぎません。重要なのは、なぜその未解決問題に取り組む価値があるのかです。
世の中には、未解決ではあるが研究する価値があまりない問題もあります。また、未解決で重要な問題ではあるものの、現時点では解決する方法が存在しない問題もあります。
さらに、もしその問題が本当に重要で、しかも解決方法がすでに存在するのであれば、なぜまだ誰も解いていないのでしょうか。この問いにも答える必要があります。
なぜ他の人には解けなかったのか。なぜ今なら解けるのか。なぜ申請者なら解けるのか。
この点に説得力のある答えがなければ、「未解決である」という事実だけでは、良い研究テーマにはなりません。
おもしろい研究テーマとは何か
では、結局のところ、おもしろい研究テーマとは何なのでしょうか。次のように考えるとわかりやすいと思います。
おもしろい研究テーマ = 問題の重要性 × 解決できる見込み × 適切な時間軸 × 多様性
もちろん、これは厳密な数式ではありません。しかし、研究テーマを考えるときの判断軸としては有効です。
重要な問題であること。ある程度の勝算があること。研究費の期間内に一定の成果が出せること。そして、他の研究とは違う切り口や多様性を持っていること。
この4つの条件がそろうほど、研究テーマはおもしろくなります。
1.問題の重要性
まず重要なのは、扱う問題そのものに価値があるかどうかです。
たとえば、「宇宙の果てはどうなっているのか」という問いは、多くの人が重要性を認めるでしょう。一方で、「ニンジンは空を飛ぶか」や「私の家の庭石の産地はどこか」といった問いは、少なくとも多くの研究者にとって重要な問題とは言いにくいでしょう。
では、重要な問題とは何でしょうか。
たとえば、未だに意見が対立しており、決着がついていない問題。これまでの考え方を根本から見直す必要がある問題。今後の研究の方向性を決定づける問題。こうした問いは、重要な研究テーマになりやすいと言えます。
共通しているのは、その問題が解けたときに、申請者本人だけでなく、当該分野、周辺分野、あるいは社会全体に影響を与える点です。重要性の鍵は、影響する範囲の広さにあります。
「自分が知りたい」だけではなく、「それがわかると誰の考え方が変わるのか」「どの分野の研究が前に進むのか」「どのような議論に決着がつくのか」を考えることが重要です。
2.解決できる見込み
次に重要なのは、その問題をどの程度解けそうかという見込みです。
どれほど重要な問題であっても、まったく解ける見込みがなければ、研究テーマとしては危険です。一方で、簡単に解ける問題は、たいていの場合、価値が低くなりがちです。
重要なのは、問題の価値と解決可能性のバランスです。
簡単すぎる問題ではインパクトが小さい。難しすぎる問題では成果が出ない。したがって、狙うべきは、重要でありながら、申請者なら一定のところまで解けそうな問題です。
目安としては、100%完全に理解することを目指すのではなく、60〜80%程度の理解に到達し、大きな概念や方向性を示せる問題がよいでしょう。100%の理解を目指すと、膨大な時間が必要になります。細かな枝葉の問題まで完全に解決しようとすると、研究費の期間内には収まらないことも多いです。
研究の世界では、多くの場合、大きなコンセプトを打ち立てた人が最も高く評価されます。細かな問題の解決は、その後に続く研究者に任せてもよいのです。
もちろん、いい加減でよいという意味ではありません。申請書では、どこまで解くのか、何をもって成功とするのかを明確にする必要があります。重要な問題に対して、現実的な到達点を設定することが大切です。
3.かかる時間
重要な問題であり、解決できる見込みがあったとしても、解決までに時間がかかりすぎる場合には、研究テーマとしては扱いにくくなります。
多くの研究費には期間が設定されています。科研費であれば、多くは3〜5年程度です。任期のある研究者であれば、自分自身のキャリアの時間軸も考えなければなりません。研究費も時間も有限です。
もちろん、一つのテーマに一生をかけて取り組むことは素晴らしいことです。しかし、ここで考えているのは、特定の研究プロジェクトとして申請する場合のテーマ設定です。研究費の期間内に、一定の成果が見込めるかどうかを考える必要があります。
現在の制度の中では、3〜5年である程度の成果が出せる問題を扱うことが、現実的な最適解になりやすいでしょう。あまりに大きすぎる問題を掲げる場合には、その中から研究費の期間内に到達できる部分を切り出す必要があります。
大きな夢を持つことは大切です。しかし、申請書では、その夢のどの部分に、どの期間で、どこまで到達するのかを示さなければなりません。
4.多様性
最後に、多様性も重要です。
解く価値のある問題には、多くの研究者が挑戦します。しかし、誰も挑戦していない問題が、必ずしも価値のない問題とは限りません。研究テーマの流行、分野の慣性、方法論の偏り、問題の価値がまだ十分に共有されていないことなどによって、放置されている重要なテーマもあります。
また、同じような重要性を持つ研究であれば、異なる視点や異なる背景を持つ研究者が取り組むことにも意味があります。研究者の属性、研究分野、方法論、対象とする材料、扱うスケールなどが多様であることは、研究全体の健全性にとって重要です。
審査員も、研究の多様性をある程度意識します。若手研究者の挑戦、女性研究者の活躍、外国人研究者の参画、マイナーな題材、枯れた分野の再評価、ひと昔前の手法を新しい視点で使う研究などは、多様性という観点から評価されることがあります。
もちろん、問題の重要性や解決できる見込みに比べると、多様性はやや科学的な指標としては扱いにくい面があります。しかし、それも含めて研究です。研究は、純粋なアイデアだけで評価されるものではなく、誰が、どの立場から、どのような切り口で取り組むのかにも影響を受けます。
自分の専門分野を活かして関連領域に飛び込む。異分野の考え方を取り入れる。誰も注目していない材料や現象に光を当てる。古い問題を新しい技術で見直す。こうした戦略的な多様性は、研究テーマを魅力的にする有効な手段です。
面白くないテーマを考えた方がわかりやすい
良い研究テーマを考えるのが難しい場合には、逆に、面白くないテーマを考えてみるとわかりやすいかもしれません。
最も危険なのは、「わかっていないから、やる」という理由だけでテーマを選ぶことです。わかっていないことは山ほどあります。その中で、なぜあえてその問題を選ぶのかを説明できなければなりません。
また、やればできることだけを並べた研究も、あまり面白くありません。特定の仮説を確認するだけの研究も、価値がないわけではありませんが、発展性に欠けることがあります。研究スタイルにもよりますので一概には言えませんが、テーマとしての広がりやインパクトは弱くなりがちです。
似た例として、「銅鉄実験」と呼ばれるものがあります。銅でわかっていることを、鉄に置き換えてやってみる、というタイプの研究です。もちろん、研究として成立する場合もあります。しかし、それによってどの程度新しい理解が得られるのか、どれほど大きな問題が解けるのかという点では、慎重に考える必要があります。
単なる対象の置き換え、単なる条件の追加、単なる未解明部分の穴埋めでは、申請書としての魅力は弱くなります。重要なのは、その研究によって何が変わるのかです。
まとめ:新しい飛び石を置く研究を目指す
研究というものを、「未知の大海を渡る冒険」に例えてみましょう。
これまでの研究者が築いてきた知識は、大海に浮かぶ飛び石のようなものです。私たち研究者は、その飛び石を一つひとつ確かめながら、現在の知識の最前線にたどり着きます。そこが、現在の飛び石の終着点です。
その先には、まだ誰も足を踏み入れたことのない未知の領域が広がっています。けれども、目の前に次の飛び石が見えているわけではありません。これが、学問のフロンティアです。
ここから研究者ができることは、大きく分けて2つあります。
一つは、すでにある飛び石の間を埋める研究です。既存の知識や仮説を少しずつ具体化し、細かなデータを検証し、理解の隙間を埋めていく仕事です。これは非常に重要な作業です。学問は、こうした地道な検証によって支えられています。
もう一つは、自ら新しい飛び石をどこに置けばよいかを考え、それを試みる研究です。まだ誰も測量していない海域に向かって、どの方向に進むべきか、どれくらいの距離を飛べば次の足場が見つかるかを考える研究です。
後者は、まさに冒険です。そこには当然リスクがあります。海に落ちて失敗することもあるでしょう。予想した場所に飛び石がないこともあります。それでも、一歩先に踏み出し、新たな知識の糸口を見つけることができれば、その後に続く研究者たちの道筋を示すことができます。
重要なのは、飛び石を置く方向性そのものが、次の研究全体に影響を与えることです。たとえ最初の方向性が完全には正しくなかったとしても、その挑戦が議論を生み、新たな試行錯誤のきっかけになることがあります。そうやって、人類の知識は少しずつ広がっていきます。
トップジャーナルで重視されるインパクトとは、まさにこのような影響力に近いものです。どれだけ多くの人の考え方を変えたか。どれだけ新しい研究の流れを生み出したか。どれだけ次の研究者が進む方向を示したか。そうした点が問われます。
まとめると、おもしろい研究とは、未知の大海に新しい飛び石を置くような研究です。重要な問題に対して、勝算を持ち、適切な時間軸で、他の研究者にも影響を与える形で挑む研究です。
その挑戦が必ず成功するとは限りません。道を間違えることもあります。しかし、その失敗から得られる情報が次の探求に影響を与え、新しい知識を生む土壌になることもあります。
良い研究テーマとは、単に自分が楽しいテーマでも、単に未解決のテーマでもありません。重要な問題に対して、自分ならではの切り口と勝算を持って挑み、その結果として分野の次の一歩を示せるテーマなのです。