Quick & Dirty(汚くてもいいから素早く)

初校の段階では内容や構成は十分に固まっていないことがほとんどであり、推敲を重ねる中で内容は大きく変化します。また、申請書の作成経験が少ない人は、そもそもどのような申請書が100点なのかを想像できません。そのため、大抵の場合、経験豊富な上司や同僚が考える100点の申請書とはかなりの乖離があります。こうしたなかで、申請書の初稿に時間をかけ、申請者としては100点のつもりでも、実際には50点にも満たないということはよくあります。初校に時間をかけるのではなく、Quick & dirty(汚くてもいいから素早く)の精神で、なるべく早く初稿を完成させることが重要です。

たたき台となる初稿の完成

申請書作成における最悪のケースは、中途半端に取り組んだが、最終的に間に合わず提出できないことです。注ぎ込んだ全ての労力が無駄になり、研究費獲得のチャンスはゼロになります。

小説を書こうと思ったり、ゲームを作ろうと思ったりしたとき、世界観を考えるのに熱中しすぎて結局最後まで完成できなかった経験がある人は多いのではないでしょうか?このように、あれもこれもと欲張るとほとんどの場合失敗します。

こうした申請書を含む創作におけるコツは、小さくても汚くても良いから完成したものを作ることです。ゲームだったら、ボタンをおしたら即エンディング、小説だったら5ページで良いので完結させる。こうやって創作すると「思ってたのと違う…」と不満に思う点も多いでしょうが、それでも完成しないよりかはるかにマシです。

Quick & Dirtyはまさに、たたき台となる初稿の完成を促すアプローチであり、申請書作成を次の段階に進めるための第一歩です。

フィードバックを得るチャンスを増やす

申請書には締め切りがありますので、初稿に時間をかけると、修正に使うことのできる時間が減ります。たとえば、締め切り直前に初稿を提出しても、満足のいく修正にはつながらないでしょう。読んでくれる人にも時間的余裕が必要ですし、残り一日で実施できる改善策も限られています。

あの文豪ですら、時間をかけて推敲します。「一度で満足のいく申請書が書けるはずもない」ということを前提として動くようにしましょう。特に申請書を書きなれない人の場合は、指導教員やメンターの思う最善の申請書とのギャップに苦しむことになるでしょうから、細かくフィードバックを得て、そのつど軌道修正することで素早く完成度をあげることができます。

どうすればよいか

申請書をダウンロードしたら、まず、何も考えずに書けるところは埋めてください。科研費だったら、「人権の保護及び法令等の遵守への対応」や「研究遂行能力」における業績リストはすぐに埋められるでしょうし、民間財団だったら、住所・氏名や経歴などを埋めるなども書く必要があります。

その後、どんなテーマで書くのかを1日以内に考え、ざっとで良いのでどんなことを研究する予定なのか、そのテーマに関連した現状はどうなっているのかを書きだします。何を研究するかは、(よっぽどくだらない研究を除けば)究極のところ大した問題ではありません。料理人がジャガイモ・ニンジン・牛肉を前にして、肉じゃがを作るかカレーを作るか悩んでいるようなもので、本当に悩むべきはどうやったら最高の肉じゃが(あるいはカレー)を作ることができるかです。

その後、独自性や位置づけなどを思いつくままに書いたら2-3日が立っていることでしょう。この段階で一度見てもらって方向性が正しいかを確認するようにします。

恐れていた、くだらなさ過ぎる研究テーマを引き当てている可能性もありますし、テーマは良いが方法が不十分である可能性もあります。また、研究背景に対する理解が不足している場合もあります。こうしたフィードバックを得て、方向性が固まってきたら腰を据えてじっくり書き始めます。くれぐれも「いきなり完ぺきなものを見せて、びっくりさせてやろう」などとは考えないように!