おもしろい研究テーマとは何かがわかったとしても、それを見つけ、自分の研究として形にできなければ意味がありません。ここでは、どのようにしておもしろい研究テーマを見つけるかについて説明します。
おもしろい研究テーマは、次のように考えると整理しやすくなります。
おもしろいテーマ = 問題の価値 × 解の質 × 速さ × 多様性
おもしろい研究テーマとは、問題そのものの価値が高く、かつ高い解決度、つまり質の高い答えが見込まれるテーマです。上の図で言えば、選択可能なテーマは黒丸のように数多く存在します。しかし、その中で実際に取り組む価値のあるテーマは、右上にある赤丸のようにそれほど多くありません。問題の価値が高く、解の質も高いテーマを見つけることが重要です。

研究テーマ選びに慣れていないうちは、どうしても「解の質」にこだわりがちです。つまり、自分がきれいに実験できる、確実にデータが出せる、論理的にまとめやすい、といった点を重視してしまいます。もちろん解の質は重要ですが、元の問題の価値が低ければ、どれほど丁寧に研究しても大きな評価にはつながりにくくなります。普通の石をどれだけ磨いても宝石にはならないように、問題の価値が低い研究は、完成度を高めても報われにくいのです。
問題の価値
先にも述べたように、重要な問題とは、未だ意見が対立しており決着のついていない問題、これまでの考え方を根本から見直す必要がある問題、これからの研究の方向を決定づける問題です。こうした問題は、申請者本人だけでなく、当該分野や周辺分野、場合によっては社会全体に影響を与える可能性があります。
ただし、どのようにして価値のある問題を見つけるかについて、残念ながら万能な方法はありません。明らかにくだらない問題は比較的すぐにわかります。しかし、ある程度以上の水準になると、問題の重要さに明確な優劣をつけることは難しくなります。食べられる果物と食べられないものを区別することは簡単でも、リンゴとブドウのどちらがおいしいかを決めることが難しいのと同じです。
審査員は、まったく異なる研究テーマを扱った多数の申請書を読み、それらに優劣をつけなければなりません。しかし、「こちらは解く価値があるが、こちらは解く価値がない」と自信を持って断言できる人はほとんどいません。だからこそ、申請者自身が「この問題にはなぜ取り組む価値があるのか」「なぜ今この問題を解く必要があるのか」を説明し、審査員を説得することが重要になります。
問題の本質的な重要度は、誰かが簡単に決められるものではありません。私たちは最後まで「真の重要度」を知ることはできないでしょう。だからこそ、審査員を含む多くの人が納得しやすい形で問題提起を行う必要があります。何が本当に重要な問題なのかを考え続けることも大切ですが、ある程度以上重要な問題であるなら、その重要性をどう説明するかに力を入れた方が、申請書としてはうまくいきます。
価値のある問題を見つけるための視点
問題の価値を考える際には、いくつかの視点があります。第一に、さまざまな立場から自分の研究を見直すことです。自分では、ネジの研究などつまらなく地味な問題だと考えているかもしれません。しかし、NASAにとっては喉から手が出るほど欲しい技術かもしれません。自分の研究がどの領域で価値を持ちうるのかは、誰も教えてくれません。だからこそ、自分でアンテナを広げ、関連分野や社会的文脈をリサーチしておく必要があります。自分の研究の価値を見つけ、言葉にして提示することも、研究の重要な一部です。
第二に、他の人もその問題を重要だと考えているかを確認することです。大抵の場合、似たような考えを持つ人は他にもいますし、同じような問題意識は過去にも未来にも繰り返し現れます。他の研究者も重要だと考えていることは、その問題に価値があることの根拠になります。ただし、それは同時にライバルがいるということでもあります。他の人ではなく、なぜ申請者こそがその問題に取り組むべきなのかを主張するためには、解決方法や切り口が他の人とは異なっていなければなりません。同じ問題に同じように取り組んでいては、独自性はほとんどありません。
第三に、新しい価値を生み出せないかを考えることです。ある狭い領域だけの問題を解決する研究より、多くの領域に関わる問題を解決する研究の方が価値は高くなりやすいです。自分の研究が、別の分野に転用できないか、他の概念と結合できないか、常識を逆転させる見方ができないかを考えることで、問題の価値を高められる場合があります。
オズボーンのチェックリストを使う
新しい価値を考える際には、オズボーンのチェックリストを使うのも有効です。これは、ブレインストーミングを考案したアレックス・F・オズボーンによる発想法で、あらかじめ用意された問いに答えることでアイデアを広げる方法です。技術そのものだけでなく、研究アイデアやコンセプトに対して使うこともできます。
ブレインストーミングを作ったアレックス・F・オズボーンが作った発想法で、あらかじめ準備したチェックリストに答えることでアイデア発想する方法です。オズボーンのチェックリストは以下の9つがあります。
1.転用
新しい使い道は?他分野へ適用はないか?
2.応用
似たものはないか?何かの真似はできないか?
3.変更
意味、色、働き、音、匂い、様式、型を変えられないか?
4.拡大
より大きく、強く、高く、長く、厚くできないか? 時間や頻度など変えられないか?
5.縮小
より小さく、軽く、弱く、短くできないか? 省略や分割できないか?何か減らすことができないか?
6.代用
人を、物を、材料を、素材を、製法を、動力を、場所を代用できないか?
7.再利用
要素を、型を、配置を、順序を、因果を、ペースを変えたりできないか?
8.逆転
反転、前後転、左右転、上下転、順番転、役割など転換してみてらたどうか?
9.結合
合体したら?ブレンドしてみたら? ユニットや目的を組み合わせたら?
私自身は、とくに「転用」と「逆転」を好んで使っています。ある分野で当たり前とされている考え方を別の分野に持ち込む。あるいは、通常とは逆の方向から問題を見直してみる。こうした操作によって、ありふれた問題が一気におもしろい研究テーマに変わることがあります。
解の質
問題の価値が高くても、解の質が低ければ良い研究にはなりません。ここでいう解の質とは、その問題に対してどれだけ説得力のある答えを出せるかということです。データをたくさん積み上げることは、必ずしも解の質の向上にはつながりません。重要なのは、主張の中心となる問いに対して、どれだけ強く、明確に答えられるかです。
解の質を上げる特別な近道はありません。一つの結論を複数の方法で支持すること、ロジックを丁寧に追うこと、対立仮説を潰すこと、主張のコアとなるデータを見極めること。どれも基本的なことですが、非常に重要です。申請書では、単に「データを集めます」と書くのではなく、どのデータが研究の結論を支えるのか、何が得られればどの主張が可能になるのかを明確にする必要があります。
私はよく、自分のことを強く嫌っている人がレビューワーだったら何を言われるかを想定します。「その解釈は本当に成り立つのか」「別の説明はできないのか」「そのデータだけでそこまで言えるのか」といった反論を先回りして考え、あらかじめ対策を取っておくのです。これは申請書でも論文でも有効です。批判的な読者を想定することで、解の質は上がります。
かかる時間
解の質を追い求めることは大切ですが、いたずらに完成度を追求しすぎると、効率という点では不利に働きます。テーマのおもしろさは掛け算ですので、解の質だけを上げればよいわけではありません。そこそこの完成度であっても、素早く世に出した方が総合的には良い評価につながることもあります。まさにQuick & Dirtyです。
データを補強することに集中しすぎたために、より質の低い論文を先に出されてしまった。慎重に進めているうちに、研究のブームが去ってしまった。世に出すタイミングを逃して、研究の価値が下がってしまった。こうした話はあちこちで聞きます。私にとっても耳が痛い話ですが、どこかで妥協することも研究には必要です。
もちろん、トップジャーナルを狙う場合には簡単に妥協できません。しかし、それでも旬を逃さないことは重要です。研究テーマの価値は、時代や分野の流れによって変化します。いくら良い研究でも、出すタイミングを誤れば、本来得られたはずの評価を得られないことがあります。研究テーマを考えるときには、「この問題は重要か」だけでなく、「いつまでにどの程度の解を出すべきか」も考える必要があります。
多様性
最後に、多様性も重要です。新しい技術、新しい発想、新しい組み合わせなど、人と同じことはしないぞと意識するだけでも、多様性は生み出せます。自分の専門を別の分野に持ち込む、古い手法を新しい問題に適用する、誰も注目していない材料を使う、主流とは少し違う視点から同じ問題を眺める。こうした工夫によって、研究テーマには独自性が生まれます。
ただし、多様性も突き詰めすぎると危険です。あまりに主流から外れすぎると、審査員が価値を理解できません。誰もついてこられない研究は、どれだけ独創的でも評価されにくくなります。重要なのは、完全に外れることではなく、主流から半歩ずれることです。多くの人が問題の重要性を理解できる範囲にとどまりつつ、切り口や方法だけを少しずらす。このくらいが、申請書としてはもっともバランスがよいでしょう。
おもしろい研究テーマを見つけるには、単に「自分ができること」から考えるだけでは不十分です。問題の価値を見極め、質の高い解を出す見込みを考え、限られた時間の中で成果にできるかを判断し、さらに自分ならではの多様性を加える必要があります。図の右上にある赤丸のようなテーマは多くありません。しかし、そこを意識して探すことが、採択される申請書、そして良い研究につながっていきます。