面白い研究を行うためには、どのような問題を扱うべきだろうか?
重要な問題を見つける。研究のインパクトを考える
問題解決に関して、「問題が何であるかを発見できれば、もうその問題は解けたようなものである」という格言があります。まずは解くに値する問題を見つけることが、問題解決の重要なステップです。著名な研究者ほど、研究結果を公表した際にどのくらい興味を持って聞いてもらえるのか、どのくらいインパクトがあるのか、どのくらい議論を巻き起こせるのかといったような学術的・社会的な影響力を重視し、研究テーマを決定しています。
まず最初に、「もし自分が運が良くて、しかも能力が十分にあって、その問題を自分が解決できた時に、はたして他の人々が興味を持ってその発見を聞いてくれるだろうか?」と問いかけることです。良い研究の第一の特徴は、その研究が人々が本当に知りたがっている問題に焦点を当てているのかということです。
論文として出版されるかどうがではなく、インパクトを与えることができるかどうかが、研究を行う際には大切だということを強調したいと思います。出版されることはもちろん大切ですが、それはインパクトを与えるための過程であると考えるべきです。
良い研究の一つの特徴は、他の研究者がその論文を読んでいるときに、新しい研究につながるような新しい疑間がたくさん心に浮かんでくることです。そして、研究者の間でその現象の解釈についていろいろな議論が起こるけれど、発見された現象自体は本物だということが納得させられるような研究であることです。
知的興奮を探求する。研究を楽しむ
学問における学術的・社会的な影響力だけを強調すると、ともすれば自分の知的好奇心とは無関係に研究を行うべきであるという風に受け取る方がいるかもしれませんが、良い研究をしているほど、自分の知的な好奇心にもとづいて研究を楽しむことができるような問題を扱っています。
自分が楽しめるテーマに対して、いかに学術的・社会的な影響力を与えられるような議論を展開するか、と考えるのが王道です。
フォーマルな方法論はたいへん有効です。しかし、忘れてならないことは、XXX(各分野によって異なる)を理解したいというのが根本的な目的であるということです。そのためには、まず自分自身が好奇心旺盛かつ注意深くあるべきです。
楽しい研究をすることが重要です。もし研究者にとってその研究をする ことが楽しいものでなければ、誰にとっても楽しい研究とはならないでしょう。それでは読者は読んでくれ ないし、結局、何にもならないでしょう。研究者の中には,「この研究はやらねばならないがらやっている」という人もいます。ときには退屈なことをしても良いとは思います。人生には退屈なこともあるのです。でも、全部が退屈だったら、そのプロジェクトはやめた方がよいでしょう。私は、自分自身も含めて、私の研究に携わっている人たちに、「この研究を楽しんでいる?」と尋ねるようにしています。もし楽しんでいなければ、それはしばしば、問題が面白くなかったり、手続きが混乱していたりするからなのです。
解決可能な問題を扱う
どんなに魅力的な研究テーマであっても、解決できなければそれは絵に描いた餅です。世の中には選択可能な研究テーマがたくさんありますが、選んで良いのは、重要かつ解決可能な限られたテーマだけです。
学部生が卒業論文に取り組み始めると、最初は「◯◯を研究したい」 といったきわめて漠然としたレベルの話をすることが多いです。そして、それが曖味すぎるということがわかると、今度は先行研究論文をいくつか読んで、変数の一つをちょっと動かしてみるといった小手先の研究を行おうとする傾向にあります。
重要かつ解決可能な問題を見つけるというのは、研究のプロセスの中でも特に難しいステップの一つです。何度も言いますが、問題を解決可能なレベルまで絞り込むということが、特に重要です。
おもしろい研究というのは、重要でかつ実際に解答を見いだすことが可能な問題に焦点を当てている研究です。世の中に面白い問題はたくさんありますが、大きすぎたり・曖昧すぎて、解答不可能な問題もたくさんあります。一方、解答を見つけることのできる問題でも面白くないものはたくさんあります。その間に、あなたの研究分野に関して重要でかつ解決可能な問題があります。
悪い方法の―つの例は、あまりにたくさんの問題をあつかっているものです。私の知る限り、ほとんどの悪い研究は、一度にあまりにたくさんの問題の答えを出そうとしているのです。研究には―つの間題が中心にあるべきだと思うのです。もちろん、それは単に一つの変数をあつかうだけの研究ではなく、多様な側面を持った問題も扱います。しかし、―つのまとまりを持っていることが重要なのです。失敗に終わる研究の多くは、あまりにたくさんの矛盾した問題に一度に答えようとするからなのです。そのような手続きは一つ一つの問題に対しては弱いものになってしまいます。多すぎる問題をあつかう研究を避けるために私がよくすることは、「これを―つの論文に書くことができるだろうか」と自分に問いかけることです。もし―つの論文に書き切れなければ、それはたぶん複数の研究に分けるべきでしよう。
新しい視点から理論を作る
これまでに見てきたように、良い研究をするためには大きなインパクトを持ち、知的好奇心を刺激し、しかも解決可能であるような問題をあつかうことが大切です。しかし、科学の世界への貢献を考えるとそれだけでは十分ではなく、これらに加えて、現象を適切に説明するような理論を構築することが必要です。
私が個人的に強調したいことは、技術的には優れているけれど理論的には必ずしも新しい洞察をもたらさない研究と、実際に理論的に新しい洞察をもたらす研究の間には大きな違いがあるということです。良い研究とは、今まで存在してきた理論的な枠組みに沿ってきちんとした実証的証拠を示すだけではなく、良い理論的な枠組みを生み出すものです。良い研究とは常に理論を前進させるのです。だから、すでに存在する理論を新しい現象に適用するだけの研究ではなく、さらなる理論化を押し進めるような研究が良い研究です。
私が特に面白いと思うのは、いろんな実験から分かってきた事実を一つの理論にまとめて説明するような研究です。
あまり学ぶことのないような理論的研究とは、リストを作るような研究です。重要だと思うことを全部列挙して、それぞれについて少しずつ説明しているけれど、新しいことを全く付け加えないような研究です。良い理論的研究は、リ ストを作るということを越えなければ ならないのです。それらがどのように関係するがを考え、さらに理想的には、読者がそれらの点について新しい視点から見ることができるような研究です。現象を違う視点から見るようなものです。
出典:http://www.p.u-tokyo.ac.jp/okadalab/pdf/omoro.pdf
面白い研究のアイディアはどこから来るのか?
現実の生活や日々の経験から学ぶ
観察や経験を通して不思議だなと思うことを、そのままにしておかないことから研究は始まります。現実の生活や日々の経験から学ぶことの重要性は多くの研究者が強調しています。
過去の文献で述べられている問題に取り組むことは非常に簡単です。他者の行ったどのような研究に対してもそれを拡張したり、競合仮説を考えたり、実験上の問題を直したりして研究を進めて論文を生産することはできます。しかし、そのやり方でどんどん研究を続けて行けば行くほど、その研究の貢献度は低くなっていくのです(全体としては些末なことに努力が向かうということ)。多くの場合、最良の研究は、全ての人が既に見ている根本的な現象で、しかし誰もそれを十分に分析したり理解したりしていないような現象を取り上げることです。それが、創造的でありかつ現実に根づいた研究をするための方法だと思います。
データをよく見る
創造的な研究をするためには、既存の理論や仮説にとらわれずにデータから学ぶというスタイルを取ることが重要です。データと理論の柔軟な相互作用が大切です。
実験は単にフォーマルな観察方法にすぎないのです。もし様式だけに気を取られて、真の目的である◯◯を理解することを忘れてしまったら、大したことはできないでしょう。たとえば、コンピュータを使って自分のデータについてあらゆる統計解析を行うことが可能ですが、統計解析の結果だけを眺めて、生のデータに目を向けることを忘れてしまえば、対象の深い理解には結びつかないでしょう。私たちは生のデータや現象そのものを目の前に置いておき、常にそこに帰ることが大切なのです。そして、そこに規則性や一般性を見つけだしたら、「どのような個々の現象から、このような法則性が出てくるのだろうか」 自分に問いかけることが重要なのです。「生のデータを深く知ること」に取って代わるものは何もないのです。
自分が集めたデータを様々な角度がら見つめ直しているときに、研究のアイデイアが浮かんできます。たとえデータの中にたくさんの有意差が得られても、本質的ではない変数によって起こつていることが多いものです。私は、データをいろんなやり方で図表化し、「専門分野外の研究者なら、この課題に関してどのように考えるだろうか」と想像します。そして、データの多くの側面を知るようになればなるほど、データの中に隠されていて自分が考えたこともなかったようなアイデイアが浮かび上がってくるものです。
データを分析をするときには、データ駆動型すなわちボトムアップのスタイルをとる必要がありますが、同時に理論駆動型すなわちトップダウンでもある必要があります。二つの方向が一緒にぶつかり合うところが必要で、そこで両者を結びつけるような概念を形成することができるのです。
歴史から学ぶ
研究の理論や方法論は時代とともに変化してきましたが、学問の根底に横たわる基本的な問いは、ずっと変わっていません。その意味では、先人たちが解決しようとした諸問題に目を向け、それらに最新のアプローチで取り組むことは、研究のアイデアを生み出すための有効なやり方の一つです。
どんな科学でも、本質的に重要な一群の問題があります。ほとんどの問題は学史上の初期の頃に問いかけられたものです。ある時期にはある種の問題が、そして別の時期には別の問題が焦点を当てられてきました。すでに焦点が当てられてきた問題について新しい貢献 をするような研究も大切だと思いますが、もっと面白い研究は、重要だけれどもこれまで焦点が当てられてこなかったような問題に目を向け、新しい概念や方法を使って今までの研究では解明できなかったことを明らかにするような研究です。
あるアイデアが忘れ去られたのは、そのアイディアがうまくいかなかったからではなく、時代の要請に合わなかったり、技術的に足りていなかったりしていたためであることも、往々にしてあります。だから、昔のアイデアの多くは今でも当時と同じように重要です。そして、現代のアイデアの多くは、昔のアイデアを焼さ直しただけなのです。だから、学問の歴史は、現在と未来について教えてくれるものなのです。
出典:http://www.p.u-tokyo.ac.jp/okadalab/pdf/omoro.pdf
面白い研究を行うためにはどのような戦略が有効か
一生懸命研究する
第一線の研究者たちは、驚くほどハードワーカーです。「いったいこの人たちは人間らしい生活をしているのであろうか」とときどき疑いたくなるほど、彼らは日々研究に没頭しており、またそのための研究環境も整えています。
どんな領域であれ、熟達者になるためには、対象となる領域で約10年間にわたり、1万時間におよぶ時間を使う必要があることが指摘されていますが、良い研究をするためにも大量の時間を費やすことが大切なのです。ただし、くれぐれも誤った方向に努力しないで下さい。
良い研究を行うためには、ハードワークが必要でしょう。
週80時間仕事をする習慣をつけて、それを楽しむことです。
秘密兵器(必殺技)を持つ
自分のいる環境や自分自身の中にある持ち味を積極的に活かすことが求められます。良い問題を見つけて、その問題に一生懸命取り組んだとしても、その人の持ち味を出さなければ、真にユニークな研究はできないでしょう。研究には競争という側面があるため、それに勝つためには、あなたの持ち味を最大限に活かす必要があります。
研究とは新しいことを発見すること、すなわち他の人よりも先に答えを見つけなければなりません。したがって、もしあなたが良い間題に焦点を当てていたとしたら、「なぜ自分にその問題が解決できるのだろうか」と問いかけることです。他の人でもこの問題が大事な間題だと気づいていますが、まだ解答を見つけていないのです。あなたは、少なくともその問題を解くための最初のステップを知っていますか?もし、あなたがすでに最終ステップまでわかつているのなら、それはあまり面白い問題ではないでしょうが、少なくとも最初に何をすべきかが見えていますか?もっと厳しい質問としては、どうしてあなたが他の誰よりも先に、その問題を解決できると思うのですか?たとえば、「あなたが研究をしている大学がその領域で世界の第一線にある」とか、「あなたの研究室が他にはあまり無いような装置を持つている」とが、「あなた自身が特別なバックグラウンドや経験を持つている」とが、とにかくあなたは常に何らかの秘密兵器(他の人よりも速くその問題を解決するための特別な手段)を持つ必要があるのです。なかには「自分は他の人より頭がいいから人より先に解決できるだろう」と考える人もいるかもしれないけど、それは危険な賭けです。
自分の先入観や仮説にとらわれない。アッと思うような予想外のデータを大事にする
科学的発見に関する認知心理学的研究では、大きな発見が起こる際には、研究者たちが予想を裏切られるような驚くべき結果に目を向け、それを有効に利用していることが指摘されています。
人間には、自分の仮説や思い込みにとらわれて、予想外のデータが出たときにそれを無視してしまう確証バイアスと言われる傾向があることが知られていますが、予想外の結果をいかに有効に活用するかが、創造的な研究を行えるかどうかの分岐点の一つなのです。
研究の中で予想してなかったようなことが起こった時にそれに注意を向けるべきです。先入観を持って研究を行うということはとても楽なことです。私たちは皆そうしています。でも、もし予想しなかったようなことに目を向けようと試みなければ、私たちはそのプロジェクトから、あまり学ばないでしょう。
常識を裏返して考える
創造的という言葉は常識にとらわれないという意味を含んでいます。すなわち、常識を裏返して考えてみないことには、創造的なアイデアは出てこないものです。
特に、現在、主流(優勢)な理論の前提を意図的に疑ってみることにより、多くの人が知らず知らずのうちに影響されている思考の枠組みを外してみることが可能になるかもしれません。
理論的な研究で非常に大切なことは、だれが他の人が理論化した非常に重要なアイデアで、しかもあなたが「全く間違っている」と思うものを見つけることです。このやり方は、あなたの思考を明確にするためにはたいへん役に立ちます。
一般的に言って、私たちは最初から何かのアイデアや直観を持っていて、それが正しいと信じ込んでいます。そして、それを証明するための方法を考えます。
自分の中で一貫性を持った研究をする
良い芸術家は一貫したテーマやスタイルを持っていると言われます。研究においても、一貫したテーマを持って研究活動を行うことは、研究者の顔が見えるという点で重要です。さらに、一貫性を持つことにより、時間的あるいは物理的な資源を有効に使うことが可能になり、細かいところまで注意を向けることが可能になります。
研究は面白い問題を扱わなくてはなりません。それから、その研究者の一連の研究の流れの中に位置づけられなければならないのです。なかには、チヤンスがあればどんな研究でもする人もいます。たとえば、研究Aは研究Bと全く関係なく、それはまた研究Cとも全く関係ないというように研究を進めていく人もいます。しかし、それは良い考えではありません。なぜなら、あなたはバックグラウンドを知らないかもしれないし、何よりもほとんどの研究プロジェクトは最初思ったよりもずっと複雑なのです。もしあまりにたくさんのトビックに手を広げすぎると、細かいところまで十分深く考えを進めるだけの深さが得られないでしょう。だから、研究には一貫性がなければならないのです。 でも、他の人が一貫性を見つけられなくても、自分なりに一員性を見つけることもあります。大学院生は、ときどき指導教宮が言う通りの考え方をしなければならないと考える人もあります。しかし、古い世代の人たちが者えるのとは異なる形で一貫性を見つけることができるかもしれないのです。私のトピックは、私の指導教宮が考えたのとは違う形の一貫性を持つていましたので、他の人を説得するために一生懸命説明しなければなりませんでした。でも、そのことによつて、私は理論的側面を考え始めるようになったのです。
他者とアイデアを交換する
科学的コラボレーションに関する研究から、他者に自分のアイデイアを伝えたり、議論を行うといったコミュニケーションの重要性が示されています。
研究についてやりとりすることのできるグループが必要です。そのグループは批判的であることが必要です。競合仮説や実験に含まれる潜在的な問題点などをチェックするためには、厳しい批判が必要なのです。良い研究をしても、コミュニケーションに成功しなければだめでしょう。自分で勝手に何か問題を設定し、それをずっと研究し続けていくという人がいますが、そういう研究は議論に値する問題を対象としていない可能性を含んでいます。もっと魅力的な研究をするためには、学会に行つたり、人と議論したりする必要があります。
何か良いアイデアを思いつくのはとても面白いことですが、アイデアを思いつくことが、その分野を発展させるわけではないのです。発展は、良いアイデアのコミュニケーションによるのです。多くの人たちが良いアイデアを思いつくだけで満足して、それを伝えることを怠っています。あるいは、論文として書きさえすれば、読者は理解できるだろうと思っています。でも、学者の仕事のとても大きな部分というのは、どうすれば読者によく理解してもらえるのか、を考えることなのです。
多様な方法を統合する。学際的な研究をする
ある研究分野での常識は別の分野での常識ではありません。ですので、他の分野と交流するとこれまで抱えていた問題が意外とすんなりと解決できるということが、しばしばあります。特に、学問分野が細分化し分野間の交流が薄くなっているので、逆にねらい目です。