「どこまで明らかにするか」の書き方

研究に終わりはありませんので、どこまでを本研究のゴールに設定するのかは申請者自身が決める必要があります。多くの場合、このことは見落とされがちですが、科研費では「どこまで明らかにするか」という文言があるように、審査するうえで極めて重要な項目です。

ポイント

研究目的、研究計画などには、以下の内容が含まれます

1. 本研究で何を明らかにするか(研究目的)
2. どうやって明らかにするかの概要
3. 研究目的を達成するための具体的な2,3の研究項目
 3-1. (計画の背景・問題点のリマインド)
 3-2.  何をどうるすのか
 3-3. 具体的な研究のゴール
 3-4. 予備データ、計画を理解できる図
4. 予想通りに行かないときの対応
5. タイムテーブル
6. 研究の準備状況

たとえば、このような研究目的・研究計画を考えてみます。

 そこで本研究では、肝細胞のCeacam1遺伝子に着目し、CEACAM1による肝臓のインスリンクリアランスおよび全身のインスリン感受性の調節が動脈硬化に及ぼす影響を明らかにすることで、代謝恒常性における〇〇〇を明らかにすることを目的とする。

本研究で何をどこまで明らかにするか
計画1 GR活性の制御における脂肪酸の機能解明
PR5, FKBP51, FKBP52は〇〇〇に関わることが報告されている。そこで、PP5 KOおよびFKBP51 KO、FKBP52 KO、野生型の細胞において、飽和脂肪酸やMUFA、PUFAなどの様々な脂肪酸による細胞の処理が、GRヘテロメリック複合体内のTPRタンパク質の発現にどのような影響を与えるかを解析する。すでに確立しているMEF細胞株に加えて、WTおよびPP5 KOマウスから初代脂肪細胞を分離し、リン酸化特異的抗体を用いてこれらの細胞型におけるGRのリン酸化状態を時間毎に明らかにする。さらに、レポーター遺伝子を用いた遺伝子発現解析と、様々なFAおよびグルココルチコイド処理による内在性遺伝子のリアルタイムPCR解析により、GR活性に対する脂肪酸の影響を時間変動に注目して定量する。これらのアプローチを総合することで、TPRタンパク質が脂肪酸に反応するキネティックスを明らかにし、GR活性と特に高い相関を示す時期を明らかにする。

計画2 …

この文章を例に、以下の2つのポイントを見ていきましょう。

ポイント1:研究のゴールをどこに設定するのかは申請者自身

何をどうするか、をどれだけ書いても仕方がありません。審査員が聞きたいのは何を示すことができたらこの研究は成功だと申請者は言うつもりなのか?です。

研究そのものには終わりはありませんが、「本研究」は、有限の予算や時間の中で実施し、研究が終われば終了報告をする必要があり、一区切りつきます。つまり、本研究が成功した(あるいは失敗だった)と評価するためには研究のゴールを設定する必要があり、ゴールに(期限内に)到達できたから本研究は成功だ、到達できなかったから失敗だとなります。

そして、もっとも大事なことは本研究のゴールを設定するのは申請者自身であることです。審査員が申請者の研究のゴールを設定するのではありませんし、誰もが当然だと思う明確なゴールが存在しているわけではありません。申請者自身が、本研究のゴールをここに設定しますよと宣言する必要があり、科研費における「どこまで明らかにするのか」はまさにこの点を聞いています。

そのため、研究計画では、項目ごとに何を明らかにするつもりなのか、何が示せたらこの研究は成功だと定義するのかをそれなりに具体的に示す必要

  • がん治療に対する示唆を得る
  • 人間とはという根源的な問いに答えを出す

のようなあいまいなゴールは許されず、どのような状態になれば「示唆を得た」「答えを出せた」というつもりかを申請者なりに考え、それを明示する必要があります。漠然とした研究計画では思いつけない内容なので、自分の研究計画と真剣に向き合う必要があります。

ポイント2:審査員は設定されたゴールの距離とそこに至る方法の妥当性を評価する

分野外の審査員にとって、何をどうするか、といった研究計画の細かい部分は説明されてもわかりません。たとえば、〇〇〇社製の装置を使うと言われても、それでなければダメなのか他の方が実はいいのかを判断する根拠を持ち合わせていません。わからないものは評価しようがありませんので、こうした細かい点は実質的に評価対象にはなりません。

では申請者はどこを評価しているのでしょうか。分野外とはいえ、ある程度は近い分野の審査員ですから、あることを示すことがどれくらい大変なのか、あることを示すためにどれくらいの研究量が必要なのかは予想できます。

こうしたことから審査員が評価するのは以下の2点です

研究ゴールまでの距離は適切か

たとえば、「〇〇〇癌の新規治療法の開発」という研究目的に対して、「〇〇〇癌の遺伝子発現プロファイルを調べる」研究は、期間内にほぼ確実にゴールに到達できると予想できますが、ゴールを設定する場所が近すぎて研究のインパクトという点では不十分です。逆に「〇〇〇癌細胞だけに確実に効果があり、正常細胞には一切副作用のない、新規化合物の開発」は実現できれば確かに画期的でしょうが、期限内にゴールに到達できる可能性は限りなく低いでしょう。

このように、研究を有限の期間内に終えるためには適切な距離があり、申請者が設定したゴールが近すぎたり遠すぎたりしていないかは審査ポイントの一つ目です。

研究ゴールに至る方法は妥当か

適切な距離にゴールが設定されたとしても、そこに至る方法が不十分であれば研究計画は評価されません。たとえば、先ほどの「〇〇〇癌の新規治療法の開発」という研究目的に対して、「神への祈りを強化する」という研究方法は明らかに不適当であり、その先に新規治療法があるとは思えません。

また、逆にあれもこれもと色々やることは結構ですが、本当に期間内に全てをできるのか?と疑ってしまうような総花的な研究も、研究方法が妥当かという観点からは問題になるでしょう。

そしてもっともよく見られるのが、明らかな研究量の不足です。たとえば、がんの治療法を開発すると言っておきながら、遺伝子発現解析をするとだけ書かれたような研究計画が該当します(そして、この手の研究計画は実際に多く見かけます)。仮に遺伝子発現解析を完全にうまくできたとしても、がんの治療法の開発には至らないのは明らかです。看護系では、介入プログラムを作成するという研究計画も良く見かけますが、作成して宣伝するだけで、実際にそれを用いて効果があるかどうかの検証はほとんど行わないような研究も良く見かけます。

このように、研究のゴールに到達するためにはそれなりの研究を行う必二要があり、申請者が設定したゴールに到達するための研究計画になってるかは審査ポイントの二つ目です。

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