「研究業績・研究遂行能力」の書き方

異なる研究分野の異なる研究内容の申請書の優劣を決めることは難しい仕事であり、りんごとコーヒーのどちらが美味しいのかを決めるようなものです。しかし、審査は相対評価であり(そして審査理由を示す必要があるため)、何らかの指標をもとに比較をしないといけません。

こうした比較をする際に、価格や栄養、カロリーなど比較可能なものが示されていれば、比較しやすくなります。それこそが、「研究業績・研究遂行能力」を書く理由です。

何を書くか

どんなに良いテーマで適切な方法で研究するにしても、未来は予測できません。そうした中で評価するためには過去のパフォーマンスが将来も続くだろう、すなわち、これまで成果を出してきたのであれば、本研究もうまくやれるだろう、という推測に頼ることになります。そのため、「研究業績・研究遂行能力」は基本的には業績リストであり、業績の数と質にモノを言わせて、申請者がこれまでに「うまくやってきた」ことを示す必要があります。

「本研究内容に関係するもの」のような指示がある場合はそれに従うことになりますが、全く異なる研究をしているケースは少なく、ほとんどの場合は広い目で見れば何かしら関係しています。変に厳しくせずなるべく基準を緩めて多くの業績を書くようにしましょう。

これまでの研究活動(前半):文章による説明

「これまでの研究活動」の前半には、これまでにどんな研究をしてきて本提案に至ったのかという経歴を書くだけでなく、これまでの研究は本研究を遂行する上でどう役立つのかについても書く必要があります。

よく、履歴書のような「これまでの研究活動」を書く人がいますが、これは良くありません。

20〇〇年に学位を取得した後、〇〇〇の研究に従事した。その後、〇〇〇で…

こうした経歴を示したところで、申請者に本研究計画を遂行する能力があることを審査員にアピールしたことにはなりません。そのため、単に「〇〇〇してきた。」ではなく次のように言葉を足す必要があります。

申請者はこれまで、〇〇〇の研究から〇〇〇における〇〇〇を明らかにしてきた(文献)。

  • この手法は本研究を進めるうえでのコア技術であり、…
    (だから本研究の遂行には何ら問題がない)
  • その後、〇〇〇を〇〇〇であることを明らかにしており(未発表)、本研究はその知見をもとに立案した(から先進性があり、研究遂行能力は高い)。
  • 本研究ではここで確立した大規模なコレクションをそのまま利用可能である(から優位である)。

などが一例です。ただし、「着想の経緯」と内容が被りがちなので、ここでは、どうすごいのかについては詳しく述べる必要はなく、これまでの研究成果が本研究の立案や遂行に役立っていることを示します。

他にも、

  • 申請者は〇〇〇賞を受賞した。(このままでも悪くはないが…)
    →申請者は、各年度でもっとも優秀な1名のみが獲得できる〇〇〇賞を受賞した(この方が優秀さ≒遂行能力の高さをアピールできる)。

このように、あの手この手で申請者に本研究の遂行能力があることをアピールします。単なる業績のリストでは説明できないことを優先して書くようにします。

科研費などでは研究業績と呼ばずに研究遂行能力となっており、「なぜ、あなたは自分ならこの研究計画をうまく進められると考えているのですか?説明してください。」について説明することが求められています。単に業績リストを示すだけでなく、「私は〇〇〇をしてきて、〇〇〇である。(だから私にはこの研究計画を遂行する能力が十分にある)」までがしっかりと伝わるように補足説明を入れるようにしましょう。

「業績リストからわかるでしょ」と考えず、きちんと説明してください。分野外の審査員は、説明されれば理解できますが、説明されない限りは何も知りません。

これまでの研究活動(後半):業績リスト

文章による業績説明(前半)は個別の業績を掘り下げて説明したり、業績全体を俯瞰して説明したりするパートです。こうした説明により、本研究計画との関係を詳細に説明できますが、扱える業績量は限られてしまいます。

こうした説明にくわえて業績リストを示すことが有効です(一周回って戻ってきた感はありますが)。以下のようにさまざまな工夫が考えられます。

  • 研究代表者分担者のように区別する
  • Co-first authorやCorresponding author, Co-corresponding author等の場合はそうであるとわかるように注記を入れる
  • 筆頭著者が多い場合は自分の名前を太字にする(2nd author以降が多い場合は逆効果かも)
  • 場合によっては、文献の途中に日本語でこれがどんな仕事なのかを1行程度で補足説明を入れる
  • 査読の有無を記す
  • 「2番目/20人中」のように著者名を一部省略し、文献リストをすっきりさせる

また、業績リストではなく研究遂行能力ですので、原著論文だけでなく、総説、査読付きの会議、招待講演、受賞歴、著書、特許、メディアでの紹介、学会発表(特に若手は)など、研究遂行能力を示すもの(業績等)の解釈はかなり自由です。なるべく視野を広くし、十分量の業績リストを示すようにしましょう。

書けることが少ないときに(またはその逆)

「研究遂行能力」に限らず、申請書において余白は厳禁です。なるべく余白をなくし、ピッタリになるようにするためには以下のような工夫が考えられます。

  • 文献リストの行間を広げる
  • 情報を詳しく書く
  • (普段は書かない)メディアで取り上げられたことや被引用回数など、申請者の研究遂行能力の証明になりそうなことを頑張って考える。ただしあまりにもどうでも良い雑文などは印象良くないです。
  • ちょっと古めの論文も示す。仮に過去5年以内のものと限定されているような場合であっても、重要論文については、これまでの研究内容の紹介時に、自己引用の形で示すことが可能です。出版した全ての論文について、これをすると心象的にはマイナスですが、これぞという代表論文については紹介しておくと良いでしょう。

いずれも、こうしたから大丈夫とは言えず、スカスカの状態で提出するよりはまし程度です。こうした業績はすぐにはどうしようも無いので、あまりできることはありません。 普段からの積み重ねが重要です。


中には紹介したい業績が多すぎる人もいます。こうした場合には、

  • 重要な内容に絞り、残りについては「他10件」のようにまとめる
  • フォントサイズを小さくせず(読みにくいので)、行間を詰めることで対応する
  • 文字間を詰めることで1行削れそうなところはないか探す

などの工夫が可能です。安易にフォントサイズを小さくすると読みにくくなるので、その選択肢は選ばないと決めてから対策を立てると良いでしょう(フォントサイズを小さくすることを許すと歯止めが効かないので)。

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