申請書をわかりやすく書き、主張を審査員にしっかり伝えるためには、文章が論理的であることが重要です。では、どのような文章が論理的なのでしょうか。
論理的な文章とは、単に難しい言葉を使った文章ではありません。主張が明確であり、その主張を支える根拠があり、主張と根拠の関係が読み手に伝わる文章です。申請書で言えば、「何を明らかにしたいのか」「なぜそれが重要なのか」「どのような根拠に基づいてそう考えるのか」「どのような方法で確かめるのか」が、順序立てて説明されている文章です。
論点の明確化
まず重要なのは、論点を明確にすることです。研究の目的を明確にし、具体的にどの問題に、どのように取り組むのかを定義しましょう。これにより、審査員は研究の実現可能性や独自性を評価しやすくなります。
よくある悪い例は、次のようなものです。
本研究では、リンゴのおいしさと遺伝子の関係性を調査する。
この文章では、何を調べるのかは何となくわかります。しかし、「リンゴのおいしさ」とは何を指すのか、「遺伝子との関係性」とはどのような関係なのか、そこから何を明らかにしたいのかがわかりません。単に「調査する」と書くだけでは、研究の目的も、問題意識も、申請者の主張も伝わらないのです。
また、「関係性」のような言葉にも注意が必要です。便利な言葉ですが、具体的に何を指しているのかがあいまいになりやすいからです。相関を調べるのか、因果関係を示すのか、制御機構を明らかにするのかによって、研究の意味は大きく変わります。
目的が大きすぎる場合や、総花的すぎる場合も、論点はぼやけます。研究期間内に終わらないほど大きな目的を掲げたり、あれもこれも詰め込みすぎたりすると、審査員は何を中心に評価すればよいのかわからなくなります。申請書では、限られた期間と紙幅の中で、何を中心的な問いにするのかを絞ることが重要です。
申請書の構成を明確にする
何をどこに書くかは、論理的な申請書を書くうえで非常に重要です。構成が明確であれば、審査員にとっては注目すべきポイントが見えやすくなります。また、申請者にとっても内容の重複を避け、限られた紙幅の中にすっきりと情報を配置しやすくなります。
背景には背景として書くべきことがあり、目的には目的として書くべきことがあります。独自性の欄で単に研究内容を繰り返したり、研究計画の欄で背景説明を長々と続けたりすると、申請書全体の論理が崩れます。各項目の役割を理解し、それぞれの場所で聞かれていることに答えることが、論理的な申請書の土台になります。
科研費.comでは、申請書の構成を非常に重要視しています。申請書は、背景、問題点、目的、方法、独自性、期待される成果といった要素が組み合わさって一つの主張を作る文章です。何をどこに書くかについては、別項目で詳しく見ていきます。
主張と根拠を明確にする
科学的な文章は、「小さな主張」の積み重ねでできています。小さな主張を組み合わせて中くらいの主張を作り、中くらいの主張を組み合わせて、申請書全体の大きな主張を作ります。大きな主張とは、申請書全体を通じて伝えたい中心的な主張そのものです。
基本的には、マトリョーシカのように入れ子構造が明確な文章は論理的であるとみなされます。逆に、この入れ子構造が崩れると、読み手には非論理的な文章に見えてしまいます。
主張の最小単位である「小さな主張」は、次のような構造を持ちます。
(1)○○○は○○○である。(事実)
(2)研究の結果○○○というデータが得られた(結果) or 〇〇〇と
(3)このデータから○○○であると考えられる(根拠・推論)
(4)したがって○○○である(結論・主張)
ここで重要なのは、結果を示すだけでは主張にならないということです。(2)から(4)は、一般的に認められた事実をそのまま述べているのではなく、あくまでも「私はこう考える」「私が調べた限りではこうだった」と述べているにすぎません。そのため、主張を多くの人に受け入れてもらうためには、単に結果を示すだけでは不十分です。
たとえば、次のように、結果から何が言えるのかを明確に宣言する必要があります。
○○○という結果から○○○であることが示唆された。このことから、○○○だと考えられる。
論理的でない文章の多くは、(1)や(2)だけが述べられており、(3)や(4)が書かれていないか、不十分です。つまり、事実や結果は示されているのに、「そこから何が言えるのか」「なぜそう考えられるのか」が説明されていないのです。
たとえば、次のような文章です。
本研究では、国内のA地域とB地域で生息する○○植物の開花時期を調査した。その結果、A地域では平均開花時期が4月5日、B地域では4月25日であった。また、両地域間で気温の平均値を比較したところ、A地域は15℃、B地域は12℃であることがわかった。本研究は重要な発見を含むものである。
この文章では、開花時期と気温のデータは示されています。しかし、申請者が何を主張したいのかがわかりません。開花時期の違いが気温によって説明できると言いたいのか、地域差そのものが重要だと言いたいのか、それとも別の環境要因を考えているのかが不明です。
申請書では、データを並べるだけでは不十分です。申請者がどう考えていて、その根拠はどこにあり、何をしたらどうなって、そこから何が言えて、それがどのような意味を持つのかを丁寧に説明する必要があります。
主張を組み合わせて大きくする
説得力という観点では、小さな主張だけでは不十分です。一つの結果だけでは弱い場合でも、別の方法でも同じような主張が可能である、他の方法でも矛盾しない、対立する説明を除外できる、といったサポートデータを加えることで、より大きな主張を作ることができます。
たとえば、次のような構造です。
(1)○○○は○○○であり、〇〇〇だと予想される。(事実と仮説)
(2)研究の結果、小さな主張が2つ3つ得られた(結果)
(3)このデータを総合すると○○○であると考えられる(根拠・推論)
(4)したがってアイデアは妥当である(結論・中くらいの主張)
このように、複数の小さな主張を組み合わせることで、中くらいの主張が生まれます。さらに中くらいの主張を組み合わせれば、申請書全体を支える大きな主張になります。
ただし、入れ子構造を深くしすぎることはおすすめしません。一つの申請書で扱える主張の階層には限界があります。階層が深くなりすぎると、全体がわかりにくくなりますし、主張の完全性を示すことも難しくなります。何より、研究期間内にそこまで示す時間が足りません。
〇〇〇の結果から、〇〇〇であると考えられる。これがもし事実ならば、〇〇〇の原因は〇〇〇であると推察される。このことが証明されれば、〇〇〇の応用にもつながると期待される。
このような文章では、推論の上に推論を重ねすぎています。「もし事実ならば」「証明されれば」「期待される」といった表現が続くと、主張の足場が不安定になります。申請書では、どこまでがデータに基づく主張で、どこからが可能性や展望なのかを明確に区別する必要があります。
主張どうしのつながりを明確にする
論理的な文章にならないもう一つの理由は、主張どうしのつながりが弱いことです。小さな主張は、それぞれ独立して存在するのではありません。前の主張を受けて次の仮説が立てられ、その仮説を確かめるために次の実験が行われ、そこから次の主張が導かれます。
たとえば、次のような流れです。
(1-1)○○○は○○○であり、〇〇〇だと予想される。(事実と仮説)
(1-2)研究の結果○○○というデータが得られた(結果)
(1-3)このデータから○○○であると考えられる(根拠・推論)
(1-4)したがって○○○である(結論・小さい主張1)
(2-1)(1-4)であることから、○○○であると考えられた。そこで…(仮説)
(2-2)そのことを確認した結果○○○というデータが得られた(結果)
(2-3)このデータから○○○であると考えられる(根拠・推論)
(2-4)したがって○○○である(結論・小さい主張2)
このように、次の仮説は前の結論や主張を受けて立てられるものです。小さな主張は単独で存在するのではなく、前の話を受けて次の話が展開される、連続したものです。この連続性が読み手に伝わらなければ、論理が飛躍しているように見えてしまいます。
論理の飛躍には、実際に論理が飛んでいる場合と、申請者にとっては明らかでも読み手には明らかでない場合があります。後者は非常に多いです。申請者は専門家なので、途中の説明を省略してもわかると思ってしまいます。しかし、分野外の審査員にとっては、その省略された部分こそが理解に必要な情報であることがあります。
そのため、論理の流れが自然かどうかは丁寧に確認する必要があります。適切な接続詞やつなぎの表現を用い、「なぜ次にその話が出てくるのか」「前の主張と次の主張がどうつながるのか」を明確にしましょう。
簡潔で明瞭な表現
「申請書を読みやすくする」にあるように、複雑な文や冗長な表現は避け、シンプルで明確な言葉を使うように心がけてください。読み手が混乱しないように、情報を適切に整理して伝えましょう。
専門的な用語や背景説明が必要な場合でも、過度に冗長な説明は避けてください。複雑な概念や詳細なデータを示す場合は、箇条書きや短い文を活用し、一目で要点を理解できる形式を意識しましょう。
〇〇〇の結果から、〇〇〇であると考えられる。これがもし事実ならば、〇〇〇の原因は〇〇〇であると推察される。このことが証明されれば、〇〇〇の応用にもつながると期待される。
悪い例:本研究は、○○○の特徴をさらに詳細に、計測および分析を行い、実験を通じてその重要な性質を解明することを大きな目標としています。
改善例:本研究は、○○○の特徴を計測・分析し、その性質を解明することを目的としています。
このように、余計な表現を削るだけで、主張はかなり明確になります。申請書では限られたスペースで研究の内容や意義を伝える必要があります。要点がぼやける表現はできるだけ避け、何をするのか、何を明らかにするのかを簡潔に書きましょう。
専門用語や略語を適切に使う
専門用語や略語は便利ですが、使い方を誤ると論理の流れを妨げます。審査員は科学技術の専門家ではありますが、必ずしも申請者と同じ分野の専門家ではありません。読者の知識レベルを想定し、必要な用語は最初に簡潔に定義しておく必要があります。
CITE-seq により、遺伝子発現の調整が環境条件に依存しており、それが発現量に大きな影響を与えることを示しました。
この例では、「CITE-seq」という専門用語が説明なく用いられているため、読み手にとって非常にわかりにくい内容になっています。科学技術の分野で査読を行う審査員といえども、必ずしも申請者と同じ分野の専門家ではこのように、余計な表現を削るだけで、主張はかなり明確になります。申請書では限られたスペースで研究の内容や意義を伝える必要があります。要点がぼやける表現はできるだけ避け、何をするのか、何を明らかにするのかを簡潔に書きましょう。
専門用語や略語を適切に使う
専門用語や略語は便利ですが、使い方を誤ると論理の流れを妨げます。審査員は科学技術の専門家ではありますが、必ずしも申請者と同じ分野の専門家ではありません。読者の知識レベルを想定し、必要な用語は最初に簡潔に定義しておく必要があります。
〇〇〇の結果から、〇〇〇であると考えられる。これがもし事実ならば、〇〇〇の原因は〇〇〇であると推察される。このことが証明されれば、〇〇〇の応用にもつながると期待される。
表現が冗悪い例:この研究では、Aという現象がBに影響を及ぼしているということを、Cという方法で解析し、それが時間的な要因が複雑に絡み合った結果で得られたものであり…(以下続く)。
改善例:本研究は、AがBに与える影響を検証したものです。そのために、Cという方法を用いました。解析の結果、時間的な要因が複雑に絡み合っていることが示されました。
短い文に分けることで、主張、方法、結果の関係が見えやすくなります。申請書では、格好よい長文を書く必要はありません。審査員が短時間で理解できる文を書くことが大切です。
また、漠然とした表現ではなく、具体的なデータや事実を示すことも重要です。「何をしたのか」「その結果、何がわかったのか」を常に意識しましょう。
本研究は、○○○の解析と解明を通じて、社会に貢献することが期待されます。
一見すると高尚な研究と思わせるような表現に見えますが、実は内容が非常に漠然としており、何を主張したいのかが明確ではありません。「○○○の解析と解明」とありますが、○○○が具体的に何を指すのか、何をどのよ一見すると高尚な研究に見えるかもしれません。しかし、実際には何を主張したいのかが非常にあいまいです。「○○○の解析と解明」とありますが、○○○が具体的に何を指すのか、何をどのように解明するのかが書かれていません。読み手に想像を委ねすぎる文章は、申請書では不利になります。
段落ごとに一つの主張を書く
最後に、段落構成も重要です。情報がまとまっておらず無秩序に書かれていると、読み手の理解を妨げます。段落ごとに主題を設定し、一つの段落では一つの主張を伝えるようにしましょう。
段落の冒頭で要点を示し、その後に根拠や補足説明を続けると、読み手は内容を追いやすくなります。逆に、一つの段落の中に背景、目的、方法、結果、展望が混在していると、何を中心に読めばよいのかわからなくなります。
論理的な申請書とは、主張が明確であり、その主張を支える根拠があり、主張どうしのつながりが自然に示されている申請書です。簡潔な表現や段落構成は、その論理を読み手に伝えるための道具です。文章を整えることは、見た目をよくするためだけではありません。審査員に自分の主張を正しく理解してもらうために必要な作業なのです。