文章の内容を推敲する

推敲の原義は「推すか、敲くか」を考える、つまり表現を練り直すことですが、おそらく最初からそのレベルでの作業は行えません。実際にすることは添削、すなわち余計な部分を削り必要な語句を補う作業になります。特に、シンプルでわかりやすい申請書を目指す上では、添えることよりも削ることのほうが重要です。

余計な表現を削除し、足りない部分を補う

頑張って書いた文章を削るのはもったいないと考えるかもしれませんが、本当に伝えたいものではない内容を削り、なくても意味が伝わる語句を削ることによって、文章はより洗練されたものになります。これ以上どこを削っても言いたいことが言えなくなるところが、その文章の骨格です。まずは「削れば削るほどいい文章になる」くらいの気持ちで文章を削ってください。

削っていく過程で文章のつながりは崩壊しますので、かえってわかりにくくなってしまう瞬間があります。「本当にこれで合っているのだろうか。元のほうが良かったのではないだろうか。」と疑ってしまうこともあるかと思います。しかし、そこを乗り越えないと新しい境地にはたどり着けません。骨格がしっかりしているのであれば、削りすぎて舌足らずになっても、ほんの少し語句を補うだけで、文章は簡単に生き返ります。

論旨が明確か

背景から始まり、問題提起、研究の重要性、解決のためのアイデア、その根拠、具体的な研究方法・研究計画、予備データ、研究が与えるインパクト、までの一連の流れが明確に示せていますか?これがスラスラ説明できない、問題提起した内容と研究計画の内容が一致していないなどの場合には、申請書の構造に問題があります。

構造に問題がある場合は小手先ではどうしようもなく、大がかりな改稿が必要になります。拙くても構いませんので、まずは骨格をしっかりさせることを重視します。以下は典型的な申請書の構造です。

  1. この分野はこういった分野であり、こういう点で重要である(一般的な背景と重要性)。
  2. 本研究内容に関連して、これまでこういうことが明らかにされており、申請者らもこういう点で貢献してきた(現状と申請者の専門性)。
  3. しかし、こうした努力にもかかわらずこういった点で問題がある(問題点)。
  4. これに対して申請者はこんな理由から、こうすれば問題を解決できると考えた(アイデアと根拠)。
  5. このアイデアを実現するうえでこんなことが課題である(問い)。
  6. そこで本研究ではこれこれを明らかにすることを目指す(目的)。
  7. 具体的にはこれとこれとこれをすることで、こういったことを示す。うまく行かない場合はこうする(計画)。
  8. これまでこうした研究に関連してこんなことがなされてきたが(国内外の研究動向)、本研究はこういった点で新しい(独自性)。この研究が成功すれば、こんなにいいことがあるだろう(創造性)。
  9. これこれの報告や申請者らの予備データから、このアプローチならば問題を解決できると考えた(着想の経緯)。
  10. 申請者らはこれまでにこういった研究をし、その成果は本研究の着想や遂行にこう役立っている(研究遂行能力)。
  11. 法令守ります、環境は十分です、準備はばっちりです(法令の遵守、研究環境、準備状況)

これらの内容は基本的には相互排他的なので、同じ内容があちこちに登場すると明らかに何かが間違っています。

文と文のつながりは論理的か、非専門家でも理解できる内容か

書いている側にとっては自明と思えることでも、審査員にとっては自明ではありません。特に、広い研究分野における背景説明から、今回の研究計画に関する狭い研究分野における背景説明へと移行する箇所や背景説明から問題提起をする箇所などは論理の飛躍が目立ちます。

科研費や学振の審査員は何かの専門家ですが、あなたの分野の専門家である可能性は決して高くありません。よく言われるのは修士課程の学生相手に説明するくらいから始めると良いでしょう。当然、修士課程の学生よりは理解力がありますので、スタート地点さえしっかりしていれば、多少の発展にはついていけます。

とはいえ、難しすぎる内容は禁物です。審査員は短い時間のうちに読んで、理解して、評価する、という3ステップをこなさないといけません。難しい内容はこれらのステップを妨げます。内容が伝わって初めて評価プロセスに入ることを考えると、難しい内容にして頭が良さそうに見せるメリットはほとんど無いことに気づくでしょう。

そうした審査員に理解してもらうためには多すぎる情報は禁物です。情報が少なすぎて理解できないのも論外ですが、内容の評価に関係の無い情報が多いと、どこに注目して良いかわからなくなります。

具体的すぎる研究の条件・手順、細かすぎる例外、本題から外れた内容の説明などは不要です。例えば、どの会社の装置を使うかは研究を実施するうえでは重要かもしれませんが、審査員がこの申請書を評価するにあたってはどうでもいい情報です。審査員の立場にたって、必要十分な情報を見極めて下さい。

不必要なカタカナ語・略語を使わない

「聞き慣れないカタカナ語=なんだか格好が良い」という幻想は捨てるべきです。非専門家である審査員にとっては「聞き慣れないカタカナ語=意味がわからない」であることを理解してください。

適切な日本語が無い場合・省略せずに書くとすごく長い場合・省略せずに書いてもやはり意味がわからない場合、などはただし書きをつけて、明確に言葉の定義をするところから始めてください。

こうした単語の大部分は削ったり、平易な言葉に書き換えても問題がありません。そもそも、本当に書く必要があるのかどうかを見なおしてください。繰り返しになりますが、決して文章が格調高くなったりはしませんし、それで審査員が感心したりはしません。

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