研究計画は申請書の本体であり、書いている内容が実現可能で、意味のあるものであることを審査員に納得してもらう必要があります。そのためには、色々な工夫が必要となります。
たとえば、このような研究計画を考えてみます。
計画1 GR活性の制御における脂肪酸の機能解明
…さらに、レポーター遺伝子を用いた遺伝子発現解析と、様々なFAおよびグルココルチコイド処理による内在性遺伝子のリアルタイムPCR解析により、GR活性に対する脂肪酸の影響を時間変動に注目して定量する。申請者はすでに、〇〇〇において、〇〇〇が〇〇〇であることを明らかにしている(図1)。
仮に〇〇〇が〇〇〇である場合は、〇〇〇ではなく〇〇〇を用いることで、〇〇〇する。
この文章を例に、以下の2つのポイントを見ていきましょう。
ポイント1:予備データを示す
予備データは様々な場面で説得力を増すためのツールとして使うことが可能です。
- 研究背景において申請者が考える仮説を支持するデータ
- 研究の展望において、本研究の発展の根拠
- 研究計画において「すでに一部については解決済みあるいはヒントが得られており、残りの部分をするだけである」との主張
など様々な場面で使えますので、できるだけ用意しておくことをお勧めします。とくに、研究計画で予備データを示すことは、2つの点で大きなアドバンテージとなります。
1.研究の方向性の正しさの証明となる
これまでわかっていないこと・できなかったことに取り組むため、新しい研究は常に博打的な要素を少なからず持っています。これを回避するため、あるいは、失敗するデメリットを超えたメリットがあることを示すために、背景ではさまざまな状況説明やアイデアの根拠を書いてきました。
しかし、どんなに「できそうだ」と主張したところで将来の不確実性に対する疑念はそれほど減りません。この研究が目指す方向性は正しそうか、期間内に設定したゴールにに到達できそうか、などを確信させるものとして予備データは極めて有効です。
すでに、ある方法で結果が出ているのであれば、他の方法よりも成功する可能性は高いと考えられますし、他の人よりもスタート地点が先にあるならば、より早くより遠くに行ける可能性は高いと考えられます。
2.研究能力、研究環境の証明となる
研究計画のパートでは、申請者の研究能力や研究環境の十分性に関して直接の主張はしませんが、こうしたデータが得られていることを示すことは、申請者の研究能力が十分に高く、研究環境も十分であることを間接的に主張することにつながります。こうした能力や環境が本研究計画を実施する際にも同様に機能し、同程度以上の実績が得られることを審査員に期待させる効果があります。
ポイント2:予備データを説明する図表、研究計画を理解できる図の挿入
予備データを示す際には文章だけでなく、図表を用いて示す方が好ましいです。「こんな結果をすでに得ている」、「こんなことがわかりそうである」、「こんなことをしている」…、と書くだけで十分に伝わるケースもありますが、図表を用いた説明は説得力があります。ここでの目的は、この研究計画ならばうまくいきそうであることを審査員に納得してもらうことにありますので、データがまとまっている図表は極めて有効な手段です。
くわえて、個別の研究計画に関する図表以外にも、研究計画の全体像が一目でわかる図を入れられるようであれば入れることをぜひ検討してみてください。個々の研究計画は本研究の目的を達成するロードマップのどこに位置付けられるか、どういった方針で何を明らかにしようとするのかが、ひと目でパッとわかるようなイラスト付きの図が理想的です。
注意1 図は論文やプレゼンのものを転用しない
申請書は論文や総説ではありませんし、学会発表等のプレゼンともまた違います。審査員は研究の詳細を知りたいわけはありませんし、限られた紙面のなかで分野外の審査員に詳細を理解してもらうことは現実的にも不可能です。ですので、こちらから示す情報は必要最小限のものにして、説明がなくとも理解できる程度にまで簡素化するのが理想的です。
論文の図はこの対極にあり、厳密なコントロールや複雑な比較など複数の情報が漏れの無いようにギュッと詰め込まれています。科学的には正しい図でも申請書となると情報過多であり、申請書を審査するうえでは不要な情報も多く含まれています。すでに完成している論文の図をコピー&ペーストで転用するのは簡単で便利ですが、論文と申請書では目的が異なります。せっかく気合をいれて申請書本文を書くのですから、図もそれに合わせて作り直すことを検討してください。
申請書の図は論文よりも自由な表現が可能であり、図中に矢印を入れたり、コメントを入れたりできますし、図を作り直すことで、申請書にピッタリサイズの図の幅を調節することも容易です。こうしたメリットを最大限に享受する意味でも、図を改めて作り直すことを強くお勧めします。
注意2 図の数を多くしすぎない
図は、わかりやすく視覚的に訴えることができる反面、肝心の本文を書くスペースが大幅に減ってしまうことは大きな問題です。図の数は平均して1ページに1つ弱くらいを理想として、むやみやたらと図を入れないように、何を示すべきかをよく考えてください。