面白い研究テーマの見つけ方でも指摘したように、研究のテーマの面白さ、研究の価値は複数の要素のかけ算で決まります。そのため、(1)致命的な弱点を作らないこと、(2)強みを明確にすることが重要です。特に以下の2つのダメなパターンを良く見かけます。

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研究分野の重要性だけを強調し、研究内容の重要性が低いパターン

がんの研究には多くの研究者が従事しており、多くの研究費が投下されています。その意味で間違いなく、「がん」は重要な研究分野だと言えます。

しかし、分野として重要であることと、あなたが申請書に書く研究テーマが重要であることは別の話です。がんを扱った研究であっても、つまらない研究は存在しますし、多くの研究者がすでに取り組んでいることから、手つかずの重要な研究テーマを見つけることは、むしろ困難かもしれません。

必ずしも大発見につながる研究でなくても良いのですが、研究されていないことは他にもたくさんある中で、なぜこの研究をする必要があるのか?という点について申請者なりの理論武装が必要です。本当は「単に知りたいから」、「やってみたいから」、「知られていないから」、といった理由だったとしても、少なくとも申請書では何かしら他人が納得できる理由が必要です。

多くの場合は

(1)すでに困っている人がいるから(重要な分野で困っていることがあるなら、それは解決すべき理由としては十分ですよね。)

(2)理解できれば多くの人にメリットがあるから(重要な分野で将来多くのメリットにつながりうる研究なら、実施するモチベーションとしては十分です)

のどちらかです。誰も何にも困っておらず、研究が完成したとしても申請者以外は誰も喜ばないのであれば、どんなに重要な研究分野の研究であったとしても、「この研究の」重要性は低いと言わざるを得ません。

書いてある内容を全部できたとしても解決レベルが低いパターン

アンケート調査をする(だけ)、評価指標を作る(だけ)、ある仮説が正しいかを観察で確認する(だけ)というパターンです。臨床医学・看護学系に多い傾向があります。

研究とは、仮説→実施→評価→フィードバックして次の研究につなげる、といったPDCAサイクルでいうところの「C(Check)」が含まれています。何かを実施して、それがどんな結果であっても良いのであれば、それは研究ではなく単なる「作業」です。

アンケートや指標を作ってもそれが機能するかが確認されていないならば誰も使わないでしょう。実際に使ってもらうためには、もっとあの手この手で、それらが有効であることを証明したり、規模を大きくしたりする必要があるでしょう。このあたりは何ができたら、どこまでが言えるのか(「何をどこまで」)とも関連する内容であり、この点については後で説明しますが、楽観的すぎる申請書を多く見かけます。制約が多い場合は大変であるケースもあるでしょうが、単に研究量が少ないように思えるケースも多いです。まずは、申請書の内容に関連する論文等をチェックして、何を示せばどんなことが言えるのか、どれくらいの実験量でモノを言っているのか相場観を養ってください。

書いてある内容通りにはいかないだろうと考えられる、解決レベルが低いパターン

マーカー探しや候補因子の同定、変異体の取得などはうまく行った事例しか論文として報告されません。研究経験が少ない場合、このあたりの相場観がわからず、「探せば必ず見つかる」という前提に基づいた研究計画をしばし見かけます。これは非常に高リスクです。また、「誰もしたことの無いことに挑戦する」と言えば聞こえは良いですが、実際はすでに多くの人が挑戦したが、誰も成功しなかったので発表されていないのかもしれません。

こうした場合には
(1)「もの探し」は高リスクであることを認識し、必ずそれ以外の研究計画と組み合わせ、また、もの探しから得られるであろう結果をもとした研究計画はメインにしない

(2)「もの探し」を(一部)実施済みであり、すでに候補がいくつか得られている、あるいは、得られる可能性が極めて可能性が高い、あと一押しで成功する、くらいの進捗が得られてから申請書の計画として書く

といった工夫が必要になります。こう書くと「では、申請書では『もの探し』の内容は書けないということか?」と思われるかもしれませんが、その通りです。正確に言えば、少なくとも申請書のメインにはなりえません。予備実験の段階でもの探しを終えておくか、何かと組み合わせてサイドストーリーとして展開する、申請書には書かず裏で実施しておいて次の申請に備えるといった工夫が必要です。

申請書においてお金がもらえるのは、ほとんど出来ていてあと一押しの状態の研究であると認識してください。

多様性について

特に多様性が重要になるのは学術変革領域の公募研究やAMED, さきがけ, CRESTなど複数の研究者を組み合わせたチームや領域を作る場合です。この場合には、自分やチームがいわゆる主流派ではなく、新しい視点や技術からチームや領域に貢献しうることを明確にしましょう。

実際、採用者を決めるにあたっては、なるべく分野などのバランスを取りたい、というニーズはかなり強いです。ところが、非主流派からの応募そのものが少ない傾向にあり、常に人材不足であるという問題があります。このことからも、多様性を意識して少しズラした分野に応募することのメリットがわかると思います。

速さについて

「〇〇月には何をして、〇〇月には何をする…」のような、具体的な研究日程を書く人がいますが、このようには絶対に進まないことは明らかなので、研究の実現可能性を審査員に印象付けることはできません。かといって、スケジュールのことを気にせずに挑戦的な研究だけをしていても良くありません。さらに、すぐに達成できることだけをして、小粒な研究にするのも良くありません。

研究の速さが評価される状況は限られており、それは予備データがある場合です。先にも書いたように、申請書においてお金(特に大型の研究費)がもらえるのは、ほとんど出来ていてあと一押しの状態の研究です。予備データを得るために研究費が必要だという矛盾はわかりますが、審査員の立場からすれば、すでにデータがあることは研究の実現可能性を評価しやすく、研究期間において大きく失敗するリスクが低く見えるため、魅力的です。

民間財団などは予備データなしでも比較的通りますので、まずは予備データを準備し、すでに研究が動き始めている(速さが十分である)状態になってから、大きな予算を狙うことをお勧めします。