内容的にまずい申請書は大抵この4パターンのどれか、あるいは組み合わせです。

  • 扱う問題の重要性が低いパターン
  • 着想に根拠がないパターン
  • 着想・計画がくだらないパターン
  • 研究計画があいまいなパターン
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扱う問題の重要性が低いパターン

研究とは、未解決の問題に取り組む行為ですので、たとえそれがどんなにくだらない問題であってもそれらを真面目に研究するのであれば、それらも研究と呼べるかもしれません。

  • 私の家の庭石の産地は不明なので、本研究で明らかにする。
  • これまで誰も青い目玉焼きを作ったことがないので、作る。

しかし、世の中には山ほど未解決問題があり、それに費やせる研究費・労力・時間は有限です。そうした中においては、なるべく価値の高いものから研究する必要があります。

研究の価値は「解決度合い」x「問題の重要性」(面白い研究とは何か)で決まりますので、解決できそうな問題の中からなるべく重要な問題を選ぶ必要があります。

ここでいう重要性とは

  1. これからの研究の方向性を大きく変えうるもの(学術の将来の方向性)
  2. 長年議論になっていた問題に答えをだすもの(研究の決着)
  3. 社会に良い影響をあたえるもの(社会還元)

など、自分以外の人もその成果を享受できるものです。これらに該当しない研究は重要度が低く「重要な未解決問題が他にたくさんあるのに、なぜ、いま、その問題を扱わねばならないのか」についてうまく説明できなくなってしまいます。

着想に根拠がないパターン

着想(アイデア)に根拠がないパターンには大きく2つあります。

1.実現するための具体的なアイデアがないパターン

たとえば、

宇宙の果てはどうなっているかは地球からは観察不可能なので、直接宇宙の果てに行けば良いと考えた。

あるいはもう少し具体的に

宇宙の果てに行くために、ワープ航法を実現することが必須であると考えた。

と書くことはできますが、現時点でこれらのアイデアを実現するための具体的な方法を提示できる人はいないでしょう。いくら重要な問題とそれを解決するためのアイデアであったとしても、そのアイデアを実現するための方法を提示できないのであれば、解決できもしないのになぜその問題を扱うのかと聞かれてしまい、うまくいきません。まさに絵に描いた餅です。

かといって、すでに方法が確立しており、誰でも解決できる問題を扱っても、価値のある研究にはなりません。簡単に手に入るものは価値が低いという大原則を思い出すべきです。

そうなってくると、他の人はできないが、自分ならギリギリ解決できる問題を見極める必要があり、なぜ他の人にできないことを自分ならできるのか、について説明するときに必要となるのが具体的で実現可能性の高いアイデアなのです。

2.着想の経緯が不明確なパターン

着想の経緯を書く際の冗談として、

  • シャワーを浴びていたら思いついた。
  • 散歩をしていたら思いついた。

というものがあります。湯川秀樹博士の中間子理論もベッドでコーヒーを飲んでいたら思いついたという話をどこかで読んだこともあります。

しかし、もちろん、申請書ではこういうことを聞かれているのではありません。いくらベッドでコーヒーを飲んでも他の人は何も思いつきません。こぼしてシミを作るのがせいぜいです。ここで聞かれているのは、なぜそのアイデアならうまくいくと考えたのか?という質問に対する具体的な根拠です。

あることを解決するためのアイデア自体は、うまくいかなさそうなものも含めて良いのであれば、いくつでも考えることができます。申請者はそうした玉石混交のアイデアの中から、もっともうまく行きそうなものを1つ2つ選んで、本研究でそれらを試そうとしているわけですが、なぜそのアイデアは他のアイデアと比較して優れていると考えたのでしょうか?

〇〇〇によれば、〇〇〇であることがわかっているので、類似の性質を持つ△△△でも〇〇〇できると考えた。

申請者の予備実験から〇〇〇であることを明らかにしているので、これを発展させれば〇〇〇も実現できると考えた。

のように何か根拠があれば、他のアイデアよりもうまく行きそうであることを説得しやすいでしょうし、より可能性の高そうなアイデアを優先的に試すのはとても合理的です。

申請書で予備データを示すことが推奨されるのは、まさに、こうした理屈からです。予備データは、少なくともアイデアの方向性は間違っていないことの傍証になり、着想の経緯に妥当性・合理性を与えることができるからです。たとえ予備データがない場合であっても、既存のアイデアの転用や結合(オズボーンのチェックリスト)から着想の経緯を補強することで、蓋然性を高めることは可能です。

着想・計画がくだらないパターン

扱う問題に対して実際の研究計画が伴っていない場合は、最初の期待が大きかっただけにすごくがっかりしてしまう最悪のパターンのひとつです。

1.計画がくだらないパターン

ある実験や調査をして何がどうなれば成功とするのかがあいまいであったり、それらが最大限うまくいったとしても研究目的を達成できそうにない場合などです。単純に研究計画が甘い場合も多いですが、おそらく経験不足から研究をまとめきるところまでを考えられていない場合もあるように思います。

この研究計画の内容が全てがうまくいったとして、具体的にどんな結果が得られると予想しているのか。そこから何が主張できるのか。何がどの程度以上であれば、この研究は成功したと言えるのか(研究の成否の判断基準はどこにあるのか)などを具体的に思い浮かべながら書くようにすると、くだらない計画を立てることは減ります。

他には、自分の研究に近い内容の良い論文を参考にして、どのようなデータがあればどのような主張が可能なのかを参考にするのも有効です。

2.研究のゴールが遠すぎるパターン

これは厳密には、研究計画がくだらないというわけではないのですが、目的と計画の不一致という意味では同じカテゴリです。研究の重要性をアピールしやすい臨床・看護系の方はこのパターンが多い印象です。

扱う問題や研究目的は大きいほどよい、というわけではありません。3年とか5年とか決まった範囲で達成できることを提案し、それに至る道筋を書く必要があります。

たとえば、研究目的に「がんの撲滅」「革新的な新規薬の開発」を書いた場合、研究がもっともうまくいったとしても、おそらくそうした目的は期間内には達成できないでしょう。期間内に達成できる「がん治療のための新戦略の確立」とか「候補化合物の作用機序の解明」あたりを目標にしないと、計画との対応はつきません。

研究計画があいまいなパターン

アメリカの学者レビットの著書『マーケティング発想法』(1968年)で紹介された有名な言葉に

ドリルを買いにきた人が欲しいのはドリルではなく『穴』である

というものがあります。しかし、研究計画にはドリルのスペックに相当する、研究材料や研究手法、穴の開け方に相当する研究手順が書かれがちです。たとえば

本研究では、材料として〇〇〇社から購入した〇〇〇マウスを用いる。マウスは2週間〇〇〇の環境で飼育し、その後、〇〇〇を〇〇〇mg投与し、〇〇〇を採取し、〇〇〇法(22℃, 〇〇〇rpm,…)で〇〇〇を検出する。(研究計画ここまで)

のような研究計画を書く人が多いですが、これでは研究計画が良いか悪いかを評価できません。審査員が知りたいのは、何を使ってどうやって穴をあけるかだけではなく、

  • なぜそこに穴を開けねばならないのか
  • どれくらいの深さの穴を開けられたら成功とみなすのか
  • 穴を開けることで研究目的のどの部分が達成されることになるのか
  • 穴を開けられる見込みはどれくらいあるのか
  • 仮にいまの方法で開けられない場合はどうするつもりか(穴が開けられるならどの方法でもよい)

などであり、圧倒的に情報が少ないことがわかるでしょう。