それぞれの項目で詳しく述べますが、着想の経緯と独自性、位置づけはいずれも相対的なものであり、国内外の研究動向と比較を通じて初めて説明することができます。

ポイント

着想の経緯、位置づけでは、以下の内容を順に段落を分けて書きます。
1.これまでどのような取り組みがなされ、何が明らかにされてきたのか(国内外の研究動向)
2.国内外の研究動向で示された他の研究と比べて、本研究はなぜ筋が良いと言えるのか(着想の経緯)
3.研究分野あるいは社会のなかで、本研究はどのような意味・意義を持つ研究だと言えるか(本研究の位置づけ)

例えばこうです。

これまで、地球外生命体の探索においては、火星やエウロパ(木星の衛星)、タイタン(土星の衛星)など、地球と比較的似ている天体や衛星に対して生命体の存在可能性が検討され、その過程で〇〇〇など新しい発見がなされてきた。申請者らもエンケラドス(土星の衛星)の氷粒子からリンが検出されたことをきっかとして、地球外生命体の存在可能性を検討してきた。
 しかし、地球外生命体が存在すると仮定すると、その生命形態や特性は地球の生命とは大きく異なっている可能性が高いにもかかわらず、これまでの研究は地球の生命の特徴との類似性を基にした探索が主流であり、地球外生命体の異質性についての理論的および実験的な研究が不足していた。これに対して申請者は、〇〇〇が〇〇〇であることから、地球外生命体の異質性を理解するためには、極端な温度や圧力、放射線やpH環境などの条件下で生命が存在できるかどうかを実験的に検証するための枠組みとモデリングから研究を行う必要があると着想した。実際、〇〇〇は○○○であると報告されている。
 こうしたアプローチは従来は探査対象とならなかった〇〇〇や〇〇〇などの領域に対して、新たな視点から生命の存在可能性を検討することにつながることから、地球外生命の探査における全く新しいアプローチにつながる画期的な研究である。さらに、実験室での実験を通じて、地球外の生命形態に適した探査技術や検出方法は探求しようと本研究は、生命探索における究極の異質性への挑戦と位置づけられます。

この例で見てほしいのは、国内外の研究動向を単なる先行研究の紹介として書いていない点です。

最初の段落では、これまで火星、エウロパ、タイタン、エンケラドスなどを対象として、地球外生命体の存在可能性がどのように検討されてきたのかを述べています。ここが、国内外の研究動向にあたります。

次の段落では、それらの研究が「地球の生命と似た特徴」を手がかりにしてきたことを確認したうえで、その前提では地球外生命体の異質性を十分に扱えないのではないか、という問題を提示しています。ここが、着想の経緯にあたります。つまり、単に「面白そうだから思いついた」のではなく、これまでの研究の流れを踏まえると、次にこの観点から研究するのが筋が良い、という形で説明しています。

最後の段落では、その着想に基づく本研究が、従来は探査対象とされにくかった領域まで生命探索の視野を広げるものであると述べています。ここが、本研究の位置づけにあたります。

このように、国内外の研究動向は、それだけで完結するものではありません。

「これまで何が分かっているのか」を書くことで、「それでも何が足りないのか」が見えるようになります。「何が足りないのか」が見えることで、「なぜ本研究を行うのか」が説明できます。そして、「なぜ本研究を行うのか」が説明できて初めて、「本研究は分野の中でどのような意味を持つのか」を述べることができます。

つまり、国内外の研究動向は、着想の経緯、独自性、位置づけを書くための土台です。

ここで重要なのは、次の2点です。

ポイント1:自分の研究だけで埋めない

詳しくは着想の経緯や独自性のページで説明しますが、着想の経緯や独自性は、基本的には比較によって説明します。

「国内外の他の研究よりも、本研究の方が妥当である」
「国内外の他の研究とは違う観点から、本研究は重要である」
「国内外の研究動向を踏まえると、本研究は次に行うべき研究である」

という主張をするためには、その比較対象となる国内外の研究状況を示す必要があります。

そのため、国内外の研究動向を自分の研究だけで埋めるのは、あまりお勧めしません。

例えば、次のような書き方です。

申請者はこれまで〇〇を明らかにしてきた。また、申請者は△△を報告してきた。さらに、申請者は□□についても検討してきた。しかし、◇◇についてはまだ明らかにできていない。そこで本研究では◇◇を明らかにする。

この書き方でも、申請者の研究の流れは分かります。しかし、分野全体の中でその研究がどのような位置にあるのかは分かりません。

審査員から見ると、「それは申請者自身の研究の続きであることは分かるが、国内外の研究動向の中で本当に重要なのか」「他の研究と比べて、なぜこの方向に進むのがよいのか」が判断しにくくなります。

一方で、次のように書くと、本研究の現在地が見えやすくなります。

これまで、〇〇についてはAらにより△△が、Bらにより□□が報告されてきた。申請者らも、〇〇において◇◇が重要であることを示してきた。しかし、これらの研究はいずれも〇〇を個別の現象として解析したものであり、△△と□□を統合的に説明する枠組みは十分に確立されていない。そこで本研究では、申請者らが見出した◇◇に着目し、〇〇を統合的に理解するための新たな研究を行う。

この書き方であれば、他の研究、自分の研究、未解決の問題、本研究の位置づけが一つの流れの中で説明できます。

もちろん、自分のこれまでの研究を書くこと自体は重要です。特に、予備データや独自の技術、対象材料、研究環境がある場合には、それは本研究の実現可能性を支える大きな材料になります。

ただし、自分の研究だけを書くのではなく、国内外の研究動向の中に自分の研究を置いて書くことが大切です。

自分の研究は、「私たちはこれだけやってきた」という業績紹介として書くのではなく、「国内外の研究動向の中で、申請者はこの位置から本研究に進もうとしている」という形で使います。

ポイント2:一方的に否定しない

国内外の研究動向は、本研究の妥当性や独自性を示すための比較対象になります。

しかし、だからといって、先行研究を一方的に否定する必要はありません。

むしろ、先行研究を雑に否定すると、申請書全体の印象は悪くなります。審査員の中には、その分野に近い研究者が含まれているかもしれません。場合によっては、申請書の中で否定した研究に関わっている研究者が審査員に近い立場にいることもあります。

それ以前に、先行研究の価値を正しく評価できていないように見えると、申請者の分野理解そのものが疑われます。

したがって、基本は次の構文です。

〇〇については明らかにされてきたが、△△については不明であった。

この形にすると、先行研究の貢献を認めたうえで、本研究が取り組むべき余地を示すことができます。

例えば、悪い書き方は次のようなものです。

これまでの研究は、地球生命に似た特徴ばかりを対象としており、地球外生命体の本質を捉えられていない。

これでは、先行研究をやや乱暴に切り捨てている印象になります。

これを少し直すと、次のようになります。

これまでの研究により、液体の水、有機物、エネルギー源の存在可能性など、地球外生命体の存在環境を考えるうえで重要な知見が蓄積されてきた。一方で、これらの研究の多くは地球生命との類似性を手がかりとしており、地球生命とは大きく異なる生命形態の成立可能性については十分に検討されていない。

こちらの方が、先行研究の価値を認めたうえで、本研究の必要性を示すことができます。

「これまでの研究は不十分である」と書くよりも、「これまでの研究により〇〇は分かってきた。しかし、△△はまだ分かっていない」と書く方が、ずっと説得力があります。

国内外の研究動向は、本研究のすごさを示すために他人の研究を踏み台にする場所ではあります。しかし、踏み台にするからこそ、そこに何が積み上がっているのかを正しく書く必要があります。

先行研究によってどこまで到達したのかを示す。
そのうえで、まだ届いていない場所を示す。
そして、その届いていない場所に本研究が向かうことを示す。

この流れができると、国内外の研究動向は、単なる背景説明ではなく、本研究の着想、独自性、位置づけを支える文章になります。