最初から失敗するつもりで研究する人はいませんが、実際には全ての研究がうまく行くことは稀であり、それなりの割合でうまくいかないこともあります。そうした可能性を想定して研究計画は立案されるべきであり、そうした想定の無い研究はリスク管理がなされていない、高リスクの研究計画とみなされてしまいます。

ポイント

研究目的、研究計画などには、以下の内容が含まれます

1. 本研究で何を明らかにするか(研究目的)
2. どうやって明らかにするかの概要
3. 研究目的を達成するための具体的な2,3の研究項目
 3-1. (計画の背景・問題点のリマインド)
 3-2.  何をどうるすのか
 3-3. 具体的な研究のゴール
 3-4. 予備データ、計画を理解できる図
4. 予想通りに行かないときの対応
5. タイムテーブル
6. 研究の準備状況

たとえば、このような研究計画を考えてみます。

計画1 GR活性の制御における脂肪酸の機能解明

…さらに、レポーター遺伝子を用いた遺伝子発現解析と、様々なFAおよびグルココルチコイド処理による内在性遺伝子のリアルタイムPCR解析により、GR活性に対する脂肪酸の影響を時間変動に注目して定量する。申請者はすでに、〇〇〇において、〇〇〇が〇〇〇であることを明らかにしている(図1)。
 仮に〇〇〇が〇〇〇である場合は、〇〇〇ではなく〇〇〇を用いることで、〇〇〇する

この文章を例に、以下のポイントを見ていきましょう。

ポイント:すべてがうまく行くという甘い見通しを持たない

 全てがうまく行くなら研究はとても簡単です。しかし、数年間もの研究期間があるのですから、もっとも可能性が高いところから研究を進めるにしても、当然失敗もあります。明確に失敗だとわかればまだマシで、あるかどうか・できるかどうかわからないものに挑戦し続けたり、意味のある結論が得られなかったりすることは良くあることです。問題はそうした時に何をするかです。

余計なことは何も考えず愚直に探し続ける、トライ&エラーを続けるというのも一つの方法でしょう。しかし、現実的には限られた期間、予算の中で成果を挙げることが求められます。仮に、これは挑戦的な研究だから成功すれば大きいことに挑戦しても良いと言われていたとしても、何のアイデアもなく同じことを繰り返すことが最善だとは思えません。

審査員もこの点を気にしていて「この前提が崩れると、以降の研究は大丈夫だろうか」「研究期間内に成果がでるのだろうか」と考えながら申請書を読みます。この疑念に対する答えのひとつは予備データを示すことであり、もうひとつがうまく行かない場合の対応(プランB)を予め考えておくことになります。

これには、どちらに転んでも良い問題を扱う主張を限定する別原理による手法を提案する方針を変更するの4種類があります。

1.やれば必ず答えがでる課題を入れる <2択>

仮に〇〇〇法の確立がうまくいかない場合においても、〇〇〇が△△△の転写標的であるかどうかについては明らかにできるため、これを利用して〇〇〇を行う。

YesかNoのどちらであるかを知ること自体が重要なケースにおいては、(研究が成立する限りは)どちらに転んでも失敗はありえません。そうした、ほぼ確実に結果を期待できる研究を少なくとも1つ加えることで、研究計画全体に安心感が生まれます。

2.ほぼ約束された研究を課題に含める <主張の限定>

仮に〇〇〇法の確立がうまくいかない場合でも、現時点で達成している技術を用いることで、△△△の転写標的の一部については明らかにできる。

1.と考え方は同じです。現時点で、ほぼ確実にやればできることを課題に加えておくことで、他がうまくいかない場合の保険となります。しかし、つまらない研究(だいたい予想されていた通り)と表裏一体ですので、研究計画全体の1つだけに留めておく方がよいでしょう。

3.挑戦的な課題は、バックアッププランも示す <別の原理による手法の提案>

……を行う。仮に、〇〇〇などの問題により予想通り進展しない場合は、〇〇〇で実績のある〇〇〇法についても検討する。 <別アプローチの提案>

最も成功する可能性が高いと考えられるアプローチで研究するのは当然のことですが、それがダメな場合でも次に可能性の高いアプローチを用意しておくべきです。ただし、あれもこれも盛り込んでしまうと時間的に実現可能なのかと疑念をもたれかねませんので、メインの手法1つとバックアッププランくらいで良いでしょう。可能であればバックアッププランが機能する根拠についても述べておいた方が説得力があります。

また、未知の物の探索系はそもそも存在しない可能性が無視できず、探索する方法をいくら変えてもバックアッププランとして意味がありません。何に対するバックアップなのかを意識しましょう。

手堅いだけの研究には面白みがありませんので、バックアッププランを用意しつつ挑戦的な課題に取り組むと良いでしょう。

4.一本足打法にならないようにする <別方面からの研究>

しかし、〇〇〇法を確立してもなお検出感度が不十分である可能性も考えられる。そのような場合には、〇〇〇や△△△、□□□により、〇〇〇の側面から〇〇〇の転写標的に迫る。

ある研究計画が成功しないと、その後の研究が止まってしまう様な研究、例えば「原因遺伝子を同定し、その機能を解析する」という計画の場合、最初でコケてしまうと、できることがありません。

いくら原因遺伝子の同定方法をあれこれ提示しても、そもそも同定が取れないかもしれません。そうした時でも、別方面から研究を進めることができるなら、うまくリスク分散ができており、着実な成果が期待できると評価できます。

「親亀こけたら皆こける」といった状況に追い込まれないように、高リスクの研究成果をもとに次の研究計画を立てる場合には、必ず別方面の研究を入れるようにしてください。