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審査員は何を求めているのか

研究計画は将来のことであり、まだ取り組んでいないことなので、立てた研究計画の全てが大成功する可能性はもちろんあります。しかし、審査員は経験豊富なので、立てられた研究計画は必ずしも予定通りには進まないことを経験的に知っています。

そうした前提を持っている審査員に対して、「できる」「する」と書くだけでは不十分です。申請者は、うまく行かない場合も想定したうえで研究計画を立てていることをアピールする必要があります。

よくある失敗例は以下のような研究計画です。

失敗例

1年目 計画Aを行う。
2年目 1年目で得られた成果をもとに計画Bを行う。
3年目 2年目で得られた成果をもとに計画Cを行う。

この例で、もし計画Aがうまく行かなかったら、どうなるでしょうか?2年目、3年目にすることが無くなってしまいます。すなわち、資金提供者(と、その代理人である審査員)から見たら2年目、3年目は計画通りいかないにもかかわらず研究費を支払うはめになり、それは無駄な投資になってしまいます。

それだけではなく、そうした「研究が予定通り進まないかもしれない」というリスクについて考えが及ばない研究者は能力が低い可能性すらあり、そうした研究者に貴重な資金を投入するよりも、他に有意義に使ってくれるかもしれない研究者に資金を投入したいと考えても不思議ではありません。

リスクへの備えを示す

研究計画では、不測の事態が発生するリスクをゼロにすることは不可能です。例えば、使用するデータが十分にそろわなかったり、採用する手法に制限が生じたりする可能性があります。

バックアッププランを用意することでそうしたリスクを見越していることを示し、「計画性がある研究者である」と評価されます。

メインプランの信頼性を補強する

優れたバックアッププランは、「万が一メインプランで成果が得られなかった場合でも、研究全体の目的に近づける」という“保険”の役割を果たします。これは研究計画全体の信頼性を大きく引き上げます。

どう書けば良いのか

最初から失敗するつもりで研究する人はいませんが、計画した研究の全てがうまく行くことは稀です。全てうまく行くことを前提とした研究計画は絵に描いた餅のようなものです。申請書においても、失敗する可能性を想定しない研究は「リスク管理がなされていない」「高リスクの研究」とみなされてしまいます。

そうならないためにも、うまく行かない場合にどうするつもりか、すなわち「プランB」について先回りして書いておきます。

基本文例

例文

…。本研究では、〇〇〇分子の〇〇〇における役割を解明するために、〇〇〇を用いて相互作用因子の網羅的な解析を行う。具体的には、を〇〇〇法を用いて発現させた〇〇〇に対し、〇〇〇により〇〇〇を実施する。万が一〇〇〇細胞での〇〇〇分子の発現が十分に制御できない場合は、すでに実績のある〇〇〇細胞を用いて同様の解析を行う。また、〇〇〇分子の発現が低い場合には、〇〇〇法による追加的な導入を実施する。

例文

…。本研究では、〇〇〇地域における社会経済データを用いて、〇〇〇指標の変動を分析し、〇〇〇のパターンを明らかにすることを目指す。主に〇〇〇で公開されているデータベースを利用し、過去10年間の統計データを分析する計画である。仮に、〇〇〇政府のデータが不足している場合には、〇〇〇大学が保有する同地域の調査データを補完的に使用する。また、データ期間が不十分な場合は、より長期的な観点から既存の類似データ(〇〇〇データベース)を併用し、研究の妥当性を確保する。

まったく書かないのは論外

うまく行かない場合の対応を書くとスペースを使います。ですが、まったく書かないのは良くありません。申請者が、今回の研究計画についてどこまでのリスクを想定しているかをアピールできるチャンスはほとんどありません。

プランBを書くことは、申請者が「わかっている」ことを示す絶好のチャンスですので、なるべく1つは書くようにしましょう。

メインプランとの整合性が重要

バックアッププランは、メインプランを補完するものであるべきで、方向性が全く異なるものにならないように注意が必要です。整合性がないと、計画として一貫性を欠き、研究全体が説得力を失います。「なぜその代替策がメインの計画と結びついているのか」を明確に示しましょう。

バックアッププランを考えるときには、まず「メインプランのゴール」を明確にし、そのゴールの達成に貢献できる形でプランBを設計することが重要です。「異なるアプローチ」であっても、目指す方向は一貫している必要があります。

たとえば、メインプランが探索的なデータ収集を目的としているにもかかわらず、プランBでは工学的な装置開発に焦点を当ててしまうと、研究目的そのものが変わってしまうため、整合性がありません。

例文

本研究では、〇〇〇手法に基づいて〇〇〇解析を進める。仮に、手法の適用が困難な際には、同じ対象に対して別の視点を提供する〇〇〇法を使用することで、この目的を達成する。

例文

…することで、〇〇〇プロセスの検証を行う。全体像の把握が困難な場合には、特に重要と考えられる特定要因(〇〇〇)のみに着目し、簡便な手法である〇〇〇を用いて〇〇〇を測定する代替方法を採用する。

プランBを強調しすぎない

バックアッププランはあくまで補完的な役割です。特に、メインプランよりも詳細にバックアッププランを書くと、「メインプランへの自信がない」という印象を与えてしまいます。メイン計画の達成を大前提にしつつ、「予見可能なリスク」に対する備えとして記述しましょう。

バックアッププランについて書く際には、メイン計画が研究全体の中心であることを強調しつつ、プランBがあくまで補完的な位置づけであることを明確にすることが重要です。

失敗例

これが実現できなかっ場合には予備的なプランBで研究全体を進める。具体的には、…
→ この場合、審査員が「この申請者はそもそもメインプランを達成する見込みが低いと考えている」と判断する可能性があります。

例文

主たる計画である〇〇が円滑に進むことを前提としているが、不測の事態に備え△△という代替策を検討しており、進行上の影響を最小限に抑える。

例文

~であることから、メインプランの大部分が実行可能であることが見込まれるが、一部リソースに不確定性があるため、その部分のみ△△方式に変更する準備を進めている。

実現可能性を示す

バックアッププランが抽象的だったり、具体性に欠ける内容だと、審査員に説得力を与えることが難しくなります。「実現可能性」を具体的に示すために、予備的なデータや過去の研究例を根拠として補うのが効果的です。

バックアッププランは具体的な内容であるほど説得力が増します。予備実験や文献調査を通じて、現実的で実行性の高い代替案を提示することが重要です。

失敗例

もし〇〇〇がうまくいかなかったら、別の手法に切り替える。
→ 抽象的な表現で、切り替える予定の手法が明確ではありません。

例文

〇〇〇が失敗した場合、予備実験において効果の確認できている〇〇〇手法を用いることでデータ収集を補完する。この手法は〇〇〇論文でも有効性が確認されていることから、実現可能性は高い。

例文

本研究で作製を予定している主要計測装置の完成が遅れるリスクに備え、予備機材による簡易測定法の試験を既に実施済みである。この方法でも、〇〇〇の一部項目で十分な精度が得られることを確認した。

過剰なバックアッププランは不要

うまく行かない時の対応を書くことがそれほど重要ならば、全ての計画に「プランB」を書けばいいのでしょうか?理屈としてはそうですが、その方針は2つの問題があり、現実的ではありません。

すべてのリスクにバックアッププランを用意しようとすると、申請書における焦点がぼやけ、研究計画全体の信頼性が低下する恐れがあります。リスクが特に高い部分に対応策を集中することがポイントです。

また、「プランB」まで書くということは2倍とまではいかないにしても、それなり書く分量は増えてしまいます。ほとんどの場合、申請書のスペースは足りないので、全てで「プランB]を書くことは現実的ではありません。それよりも、他でスペースを活用した方が採択される可能性は高くなります。

すべてにバックアップ案を準備する必要はありません。リスクが高い箇所を選定し、その部分にフォーカスして対応策を記述しましょう。

失敗例

もし〇〇〇がうまくいかなかったら、○○○をする。また、〇〇〇がうまく行かない場合は、〇〇〇する。〇〇〇についても〇〇〇のバックアッププランを準備済みである。
→ バランスを失い、冗長な記述になります。

例文

データ収集フェーズに最も大きなリスクがあるため、特にこの部分については〇〇〇を〇〇〇することで、確実に実施可能できるようにする。

例文

本研究で用いるデータの大部分は既に取得済みであり予定通りに研究が進む見込みだが、リソース不足が懸念される部分(〇〇〇)については、状況次第では代替案〇〇〇を適用する。

リスクを過剰に強調しない

リスクがあることを強調しすぎると、計画そのものが実現不可能であるという印象を与えてしまいます。リスクはあくまでも、「備えているが大きな障害にはならない」という程度で抑えつつ、対策を簡潔に記述する必要があります。

リスクを現実的かつ前向きに捉え、審査員に「対策が十分である」と納得させる表現を意識しましょう。

失敗例

複数のフェーズに不可避のリスクが存在しており、達成は非常に難しい見込みだが、それでも挑戦する。

例文

本研究は非常に挑戦的であり、いくつかの小さなリスクが存在するものの、主たる計画の進行に対する影響は限定的であり、以下に示すように必要に応じて代替策を講じている。

成果が異なる可能性を明記する

バックアッププランで得られる成果は、メインプランと同等にはなりません。その際は正直にその旨を記述するとともに、得られる成果にも十分な意義があることを示しましょう。

成果について現実的かつ慎重に記述し、「意義」をアピールすることで、審査員にとって研究の価値を損なわない内容に仕上げましょう。

失敗例

仮にバックアッププランを適用することになったとしても、全く同じ成果が得られる予定である。
→ プランBに過大な期待を抱かせる表現は、信頼性が低くなります。

例文

バックアッププランでは〇〇〇の部分的な解明に留まる可能性がありますが、〇〇〇条件下での有用な知見として意義がある。

バックアッププランにならないプランを書かない

試行回数を増やすことでうまく行く場合もあるでしょうが、その方法ではどうやってもうまく行かない場合もあるでしょう。そうした可能性を考慮しない書き方は、プランBとしては不十分です。

どこにリスクがあるのかを明確にしてください。

失敗例

本研究がうまく行かない場合には、数を10倍に増やして再度挑戦する。

バックアッププランを示すのは、そこが研究計画の急所だからです。ここがうまく行かないと研究目的の達成が危ぶまれるからこそ、何が何でも達成するぞ、ということを説明するためにバックアッププランを示すのです。

ですので、研究計画全体の中であまり重要でない研究計画にまでバックアッププランを示してしまうと、何が本当に重要なのかを見失わせてしまいます。

失敗例

バッファーをうまく調整できない場合は、市販品を購入する。

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