申請書は書きたいことを一方的に書くためのものではなく、審査員に申請者の主張を伝え・理解してもらうためのものです。そうして、審査員が申請者の伝えたいことを理解してはじめて、採否を判断するためのスタートラインに立てます。

どうすれば相手に主張が届くのかを最優先で考えた結果、申請者が本当に言いたいことをぐっとこらえる必要があるケースもあるでしょう。

申請書の採択までの4つの関門

たとえ世界を変える可能性を秘めた素晴らしい研究であっても、その価値が審査員に伝わらなければ、存在しないのと同じです。申請書の審査は、限られた予算と枠をめぐる相対評価の場です。最終段階で他の優れた提案との比較の末に不採択となるのは致し方ない面もあります。しかし、「そもそも何がどこに書いてあるのか分からない」「読んでも意図が汲み取れない」といった理由で評価の土俵にすら上がれないとしたら、これほどもったいないことはありません。

1.期日までに申請書を提出できるか

申請書が採択に至るまでには多くの関門があります。本サイトを見ているということは、最初の関門である「申請書の提出」についてはモチベーション十分と考えてよいでしょう。

それでも、忙しい毎日の中で申請書を書きあげるのはとても大変です。期日までに、申請書を書きあげるコツは「普段から書く」です。それが出来たら苦労しないよ、という声が聞こえてきそうですが。

もちろん、科研費のためだけには普段から書き続けることは難しいですが、民間財団を含めれば一年のうちに応募できそうなものはいくつも見つかります。普段から民間財団に応募するたびに少しずつブラッシュアップしていき、民間財団に採択されればそれは素晴らしいことですし、採択されなくても磨き上げられた申請書は残るので科研費の応募時にはとても楽になります。

2.「読める」申請書か

現代は「スマホでSNS」に代表されるように、長文を書くことに慣れていない人がどんどん増え、娯楽も多種多様なので読書する習慣のある人も減っている時代です。多忙な審査員は、山積みの申請書を限られた時間で審査します。すべての書類を隅から隅まで同じ熱量で読み込むことは物理的に不可能であり、日本語の文章として成立しているかどうか、は最初の関門です。私が添削する申請書でも、すごく上手なものから、文意を掴みにくいものや読みづらいものまで様々であり、どうしても読みづらい申請書については、前向きに評価しづらい気持ちになります。

ここでの読みやすさには、視覚的な読みやすさと、日本語作文としての読みやすさ文章構造の掴みやすさの大きく3つに分けられます。

視覚的な「読みやすさ」への配慮

中身の前に、まず「見た目」が重要です。適切な余白、読みやすいフォントサイズ、論理的な段落構成、そして何より図や表の効果的な活用は、審査員の認知的な負担を大きく軽減します。文章だけで説明するのではなく、フローチャートや概念図を用いて、研究計画の全体像や複雑な関係性を視覚的に示す工夫が極めて有効です。

選挙においても見た目の良い人は当選しやすいという話からもわかるように、「見かけが良い」というだけで中身までも良く見えるものです。審査員は忙しい中(大した報酬も無いのに)、申請書を読んでいるので、見た目が美しく、理解しやすそうと思わせる申請書に対する評価が甘くなるのは否めません。できることを全てするという意味においては、非常に重要な配慮ですが、ここにまで意識を配れる人はあまり多くありません(だからこそ差がつく)。

日本語作文としての読みやすさ」への配慮

申請者の主張は申請書に書かれた日本語の文章を通じてしか、審査員に届けられません。対面であれば、身振り手振りや口調など言外の情報も活用できますが、申請書では文字の並びだけが情報源です。

当然、プレゼンテーションなどよりも日本語の運用能力が重要になります。長い間申請書を読んでいると、内容や構成とは別に何を言いたいのかがわからない文章に出会うことも数多くあります。そういう場合には、申請書の他の部分や、一般常識などを駆使して審査員の文意をつかもうと努力するのですが、この作業は非常に大変です。

審査員は忙しい中(大した報酬も無いのに)、申請書を読んでいるので、ここまでして理解したいと思わないかもしれません。もし、自分が作文が上手でないと思うのであれば、生成AI等を使って、文意が伝わるのか、生成AIはどう解釈し、その解釈した内容を伝えるときに現状の文章はどれくらいその目的を達成できているか、などを「対話形式」で聞くことをお勧めします。

文章構造を整理することによる読みやすさ」への配慮

たいていの申請書では「目的」「研究計画」「独創性」など項目ごとに書くことを求められます。これは、これらの内容を評価しやすくするためですが、これらをあまり区別せずに書いている人は多いです。目的欄と研究計画欄の両方に計画を書くと、審査員は両方を読まないといけませんし、(申請者もあまり見直していないので)内容が微妙に食い違っていた場合にどちらを信じるべきかを考えないといけません。

こうした行為は審査員に非常に負荷を書けることになります。審査員は忙しい中(大した報酬も無いのに)、申請書を読んでいるので、最悪、読むこと・理解することを放棄することにもつながりかねません。審査してくださいとお願いしているのはこちら側なので、最低限、気持ちよく読めて理解しやすい文章構造にすることは申請者側の務めです。

「各項目で聞かれていることだけに答える」に尽きるのですが、もう少し説明します。文章構造に自信のない人はそれぞれの文単位でこれは「背景」「目的」「研究方法・計画」「特色・独創性」「展望(創造性)」「申請者がこの研究をすることの妥当性」のどれなのかをマークして下さい。それぞれに違う色を塗るのもいいかもしれません。たとえば目的欄においては目的だけを書くことが基本ですが、背景のリマインダーや、研究方法の概要、展望などを含めることもあります。しかし、それでも目的欄のメイントピックは目的ですので、背景や方法の方が分量が多いのは変であり、これらはあくまでも目的をスムーズに説明するための補助的な役目であり、もし本気で背景を説明したいなら背景を説明する場所で書いておくべきことなのです。
 本当にこの項目で書いていることは質問されていることに答えたことになっているかと繰り返し自問することで、余計なことを書くことをかなり防げます。どんなに慣れた人でも初稿では、いろいろ混じってしまいます。何度も推敲して、余計なところを削ったり、他に回したり、統合したりすることで文章は洗練され読みやすくなります。


が、申請者を提出した後にも、「申請書を読んでもらう」「申請者が伝えたいことが審査員に正しく伝え、内容を理解してもらう」といった関門があります。それらを通過して初めて「申請書の価値を認めてもらう」という最終関門にたどりつけます。

心を掴むタイトルと要旨: 審査員が最初に目にするのはタイトルと要旨です。ここで興味を引けなければ、本文が読まれるチャンスは激減します。研究の核心と魅力を凝縮し、簡潔かつインパクトのある言葉で表現しましょう。「何を(What)」「なぜ(Why)」「どうやって(How)」行うのかが、要旨を読んだだけで明確にイメージできることが理想です。

たとえどんなに素晴らしい研究であっても、審査員に伝わらなければ書いていないのと同じです。申請書の審査は相対的なものですから、最終段階で他との兼ね合いで不採択になるのはしょうがないことだとしても、何がどこに書いてあるのかわからない、読んでもわからない、といった理由での不採択はもったいないです。

期日までに申請書を提出できるか → 

「読める」申請書か → 何をどこに書くか

3. 内容を理解できるか/理解しようという気になるか

同じ研究内容であっても、どう伝えるか次第で、相手の理解やその印象は大きく異なります。審査員はあなたの分野の専門家ではないので、理解できるように伝えてあげないといけません。また、「少し考えれば理解できるでしょ」という態度も危険であり、審査員は忙しい中(大した報酬も無いのに)、申請書を読んでいるのでそこまでの努力はしたくありません(というか時間的に厳しい)。なので、あまり考えこまなくてもスッと内容が理解でき、評価して欲しいポイントが示されていることが重要です。

わかるレベルで説明する

専門分野は細分化しているので、あなたが考える常識は、審査員にとっては常識ではないかもしれません。簡単すぎてもダメですが、難しすぎてもダメです。審査員を具体的に想定し、彼らがわかるレベルで申請書を書く必要があります。伝えたいひとにジャストな申請書を目指してください。

具体性を意識する

完結に書こうとするあまり、やりたいことの概要だけを示し、具体的にどうするつもりかを全く書かない人がいます。また、具体的な作業手順だけを書き、結局何がやりたいのかを書かない人もいます。

具体的に書くべきところ

  • 何が・なぜ問題なのか 何を問題だと思うのか、は人それぞれですので説明してもらわないとわかりません。この問題の所在を明確にすることこそが本研究のスタート地点なので、まずはそこをしっかり書いて理解してもらうようにします。
  • 得られた結果、データの解釈とそこから何が言えるのか、をちゃんと書けている人は少ないです。ダメな申請書の大部分は「まず、○○をする。次に○○をする。」という作業手順が列挙されており、それらをした結果、どんなデータが得られると考えており、それをどう評価したら、何が主張できるのか、という結果を得た先の解釈や結論部分にまでは書かれていません。

具体的に書きすぎてはいけないところ

  • 作業の具体的手順は申請者が考えておくべきことですが、それを審査員と共有したところで、評価にはつながりません。
  • この研究の重要性。すべての人は自分のやっている研究が重要だと主張します。どれが一番とかはありませんので、ここを書きすぎたところで、「他よりも優れている」という評価にはつながりにくいです。1つ2つくらいの具体例を示しつつ、この「研究は重要だ」と書くくらいで十分です。

4. 採択に値する申請書か

面白い研究とは何か | 科研費.com

申請書の審査は、限られた予算と枠をめぐる相対評価の場です。最終段階で他の優れた提案との比較の末に不採択となるのは致し方ない面もありますが、それでも可能性を少しでも上げるためにできることはあります。

  • 独創性と新規性の鋭いアピール: 先行研究と何がどう違うのか、どこに独自性があるのかを明確に論証しなくてはなりません。「誰もやっていない」だけでは不十分です。「なぜ今まで誰もやらなかったのか(できなかったのか)」、そして「なぜ自分ならそれが可能なのか」を具体的に示すことで、研究の新規性が際立ちます。
  • インパクトの具体化: この研究が成功した暁には、学術的に、あるいは社会的にどのような貢献や波及効果(インパクト)が期待できるのかを、夢物語ではなく、実現可能性のある未来として提示しましょう。可能な限り定量的、具体的な言葉で記述することが説得力を高めます。
  • 実現可能性の証明: 壮大な計画も、絵に描いた餅では意味がありません。研究計画の妥当性、しっかりとしたマイルストーン、そして何より申請者自身の遂行能力(これまでの研究実績など)を具体的に示すことで、審査員は安心して「投資」の判断を下すことができます。