研究を続けていくうえで、研究費の獲得は避けて通れません。

もちろん、申請書を書くには時間がかかります。採択された後には報告書も必要です。複数の研究費を取れば、エフォートや重複制限にも気を配る必要があります。

それでも、研究費にはそれ以上に大きな意味があります。研究を前に進めるための資金であると同時に、自分の研究計画を磨き、次のチャンスにつなげるための機会にもなるからです。

ここでは、研究費に応募するメリットとデメリットを整理します。

メリット

研究が前に進む

研究費を獲得する最大のメリットは、研究が前に進むことです。

多くの研究は、アイデアだけでは進みません。試薬、機器、解析費、旅費、人件費など、研究を具体的に動かすためにはお金が必要です。特に実験系の研究では、研究費がないと、そもそも検証を始めることすら難しい場合があります。

やりたい研究を形にするためにも、研究費には積極的に応募していくべきです。研究費を取ることは、単にお金を得ることではなく、自分の研究を実行可能な計画に変える作業でもあります。

買いにくいものが買える

研究費には、それぞれ使途のルールがあります。

科研費は非常に重要な研究費ですが、購入できる物品や支出の範囲について、所属機関の運用も含めて一定の制約がかかることがあります。一方で、民間財団の助成金は、比較的自由度が高い場合があります。

たとえば、助成金によっては、科研費では支出しにくいもの、研究環境の整備に近いもの、学会年会費などに使える場合もあります。もちろん、最終的には各助成金の募集要項と所属機関のルールに従う必要がありますが、自由度の高い研究費は実際の研究現場ではかなり重宝します。

「大きな研究費」だけでなく、「使いやすい研究費」を持っておくことも大切です。

所属機関から報奨金や給与を得られる場合がある

研究費そのものとは別に、外部資金の獲得が、所属機関内で評価される場合もあります。

大学や研究機関によっては、一定額以上の外部資金を獲得した教員に対して、報奨金や研究支援費を出していることがあります。制度の有無や金額は機関によって異なりますが、外部資金の獲得が研究者としての評価につながることは少なくありません。

また、学振特別研究員のように、研究費だけでなく給与に相当する研究奨励金が支給される制度もあります。自分で給与を持っていることは、若手研究者にとって非常に大きな意味を持ちます。雇用主の予算状況に左右されにくくなり、研究を継続しやすくなるからです。

受け入れ研究室側から見ても、人件費を研究室で負担しなくてよい人材は受け入れやすくなります。特に大学院生、ポスドク、若手研究者にとっては、研究費やフェローシップの獲得はキャリアの自由度を高める重要な手段です。

申請書がブラッシュアップされる

研究費に応募することの大きな副産物は、申請書を書く力がつくことです。

申請書を書くためには、自分の研究を他人に伝わる形に整理しなければなりません。何を明らかにしたいのか。なぜ重要なのか。どのような方法で検証するのか。どこに独自性があるのか。採択されるかどうかとは別に、こうした問いに向き合うこと自体が、研究計画のブラッシュアップになります。

また、一度しっかり書いた申請書は、次の申請にも活用できます。もちろん、そのまま使い回すことはできません。研究の進展や応募先の趣旨に合わせて書き直す必要があります。

それでも、ある程度完成度の高い申請書が手元にあると、次回以降の申請はかなり楽になります。基礎研究向け、応用研究向け、異分野融合向けなど、少しずつ切り口の異なる申請書を用意できるようになると、応募できる助成金の幅も広がります。

研究計画をアップデートする機会になる

申請書を書くことは、研究計画を見直す機会でもあります。

普段の研究では、目の前の実験や解析に追われがちです。しかし申請書を書くときには、研究全体の位置づけや今後の展開を考える必要があります。

今のデータでどこまで言えるのか。次に何を示すべきか。どの部分が弱いのか。どこを補強すれば、より説得力のある研究になるのか。申請書作成を通じて、こうした点が見えてきます。

特に、学振や科研費のような本命の申請に向けて、普段から小さな助成金にも応募しておくことは有効です。いきなり本番の申請書を書くよりも、日頃から研究構想を文章化しておいた方が、完成度の高い申請書を作りやすくなります。

デメリット

作成に時間がかかる

研究費申請の最大のデメリットは、申請書の作成に時間がかかることです。

慣れないうちは、ひとつの申請書を書くのにかなりの時間がかかります。研究内容を整理し、募集要項に合わせ、字数制限の中でわかりやすく説明する作業は、想像以上に負担が大きいものです。

特に、金額の小さい助成金については、「この金額のためにここまで時間をかけるべきか」と感じることもあるかもしれません。

ただし、申請書作成は慣れによって効率化できます。自分の研究について、基礎研究寄り、応用研究寄り、若手向け、異分野融合向けなど、いくつかのパターンで説明できるようになると、次回以降の申請はかなり楽になります。

最初の数本は大変ですが、その後の申請書作成を楽にするための投資だと考えることもできます。

報告書に時間がかかる

採択された後には、報告書の作成が必要です。

申請書は、ある程度使い回しができます。研究の背景や目的、これまでの成果などは、応募先に合わせて調整しながら再利用できる部分があります。

一方で、報告書は使い回しにくいものです。助成期間中に実際に何を行い、どのような成果が得られたのかを書く必要があるため、助成金ごとに個別の対応が必要になります。

複数の助成金に採択されると、その分だけ報告書も増えます。年度末や研究費の区切りの時期に、報告書作成が重なることもあります。

とはいえ、これは研究費を獲得できたからこそ生じる負担です。お金がなくて研究が進まない苦しさと比べれば、贅沢な悩みとも言えます。採択後の事務作業も含めて、研究費獲得の一部だと考えておくとよいでしょう。

エフォート管理が必要になる

研究費を獲得すると、その研究にどの程度の時間や労力を割くのか、エフォートを意識する必要があります。

民間財団の助成金では、政府系の大型研究費ほど厳密に管理されていない場合もあります。しかし、だからといって適当に扱ってよいわけではありません。申請時に説明した研究内容や実施体制と、実際の活動が大きくずれていると、問題になる可能性があります。

また、複数の研究費を持っている場合、それぞれの研究にどの程度関与するのかを整理しておく必要があります。最も重要な研究費に応募する際に、すでに他の研究費でエフォートが埋まってしまっていると、応募や採択後の運用に支障が出ることもあります。

エフォートは、必要に応じて見直すことも可能です。ただし、後から困らないように、応募前から全体のバランスを考えておくことが大切です。

重複制限が発生することがある

研究費には、重複制限が設けられている場合があります。

ある助成金に採択されると、同じ年度に別の助成金を受けられない場合があります。また、同じ研究課題での重複受給が禁止されていることもあります。若手向け助成金では、年齢制限や職位制限が加わる場合もあります。

このような制限を確認せずに応募していると、「本当に出したかった助成金に出せない」「採択されたけれど別の助成金との関係で辞退しなければならない」といった事態が起こることがあります。

突発的なチャンスについては仕方ありませんが、毎年公募されている助成金や、自分の年齢・職位に関係する制限については、事前に把握しておくべきです。

研究費申請は、単発で考えるよりも、数年単位で計画する方がうまくいきます。

研究費申請は、研究を進めるための投資である

研究費申請には、手間がかかります。申請書を書く時間も必要ですし、採択後には報告書も必要です。エフォートや重複制限にも注意しなければなりません。

それでも、研究費に応募する価値は大きいです。

研究費があれば、研究を前に進めることができます。自由度の高いお金があれば、科研費だけでは対応しにくい支出にも対応できます。申請書を書くことで、研究計画そのものも磨かれます。

最初から完璧な申請書を書く必要はありません。むしろ、何度も応募しながら、少しずつ申請書と研究計画を育てていくことが大切です。

研究費申請は、単なる事務作業ではありません。自分の研究を前に進めるための重要な投資です。応募できる助成金があるなら、積極的に挑戦していきましょう。