申請書を書き切るために必要なこと

私たちは、申請書を書く必要性を頭では理解しています。しかし、日々の研究活動、授業、会議、学生指導、事務仕事など、やるべきことは山のようにあります。その中で、申請書を書くために十分な時間を確保するのは簡単ではありません。

そのため、よほど強い意志がないと、どうしても「今回は出さなくてもよいのではないか」という方向に考えが流れてしまいます。申請書を書き切るためには、文章力や発想力だけでなく、途中で投げ出さないための考え方も重要です。

ここでは、申請書を最後まで書き切るために大切なことを4つ紹介します。

1.「十分に時間をかければ完璧な申請書が書ける」という幻想を捨てる

申請書に限らず、小説を書く、ゲームを作る、論文を書くなど、何か創造的な活動をしたことがある方なら経験があると思いますが、完璧を求めると完成しません。

たとえば、ゲーム作りでは「まずエンディングから作る」という考え方があります。スタートボタンを押せば、すぐにエンディングに到達する。まずは、たとえ中身がほとんどなくても、最初から最後まで動く形を作ってしまう。そのうえで、少しずつステージやシステム、ストーリーを足していくという考え方です。

申請書も同じです。

最初から完璧な背景、完璧な目的、完璧な研究計画を書こうとすると、ほとんどの場合、途中で手が止まります。完璧を求めるということは、不十分な点に目を向け続けるということでもあります。書き始めの段階では、不十分な点などいくらでも見つかります。それらを一つひとつ気にしていては、いつまでたっても先に進めません。

まずは、問題だらけでもよいので、最後まで書き上げることを第一の目標にしてください。初稿は30点くらいの出来かもしれません。しかし、30点の初稿は、0点よりはるかに価値があります。途中までどれだけ良く書けていても、書き終わらず提出できなければ、書いていないのと同じです。

申請書作成では、最初から良いものを書くのではなく、悪くてもよいので一度形にする。その後で直す。この順番が大切です。

2.十分に余裕を持って始める

とはいえ、申請書を書くには、ある程度の時間が必要です。どれほど書き慣れた人でも、研究の位置づけを考え直したり、目的と方法の対応を整理したり、頭をクリアにして文章を見直したりする時間は必要です。

また、「3日あれば書ける」と思っていても、その3日間を予定通りに確保できるとは限りません。急な会議、学生対応、実験トラブル、事務手続きなどが入れば、申請書に使える時間は簡単に削られてしまいます。

科研費や学振のように締切があらかじめわかっているものについては、2か月ほど前から少しずつ意識し始め、少なくとも1か月前には実際に書き始めることをおすすめします。最初から長時間取り組む必要はありません。まずは公募要領を確認し、書く欄を眺め、研究テーマや構成を考え始めるだけでも十分です。

申請書作成で一番苦しいのは、締切直前に、何も形になっていない状態で焦ることです。逆に、粗くても一度全体が形になっていれば、そこから修正していくことができます。余裕を持って始めることは、申請書の質を上げるだけでなく、途中で挫折しないためにも重要です。

3.諦めない

申請書を書き始めたものの、途中で投げ出してしまう人は少なくありません。そのときによく出てくる理由は、驚くほど似ています。

忙しい。十分なデータがない。今回は準備不足だから、次回に勝負した方がよい。もう少し研究が進んでから出した方がよい。今の内容では採択される気がしない。

もちろん、本当に応募しない方がよい場合もあります。しかし、多くの場合、それらは最初からわかっていた問題です。忙しいことも、データが十分でないことも、研究計画に不安があることも、申請書を書こうと決めた時点ですでに存在していたはずです。

途中で変わったのは、状況そのものというより、「思ったよりも面倒だ」「書くのがつらい」「このままでは良い申請書にならなそうだ」という自分自身の気持ちであることが多いのです。

ここでも、完璧を目指しすぎないことが重要です。時間がないなら、時間がないなりの出来でも構いません。データが少ないなら、少ないなりに何を明らかにしたいのかを整理すればよいのです。まずは、逃げ出さずに提出することを目標にしてください。

一度書いて提出すれば、次回にはもっと上手に書けるようになります。今回の申請書の一部は、次回以降にも使えるかもしれません。そして、もしかすると今回の申請で採択されるかもしれません。

審査は完全に予測できるものではありません。ほとんど同じ内容でも、前回は不採択だったのに今回は採択されたという経験を持つ人もいるでしょう。審査員との相性、審査区分、その年の応募状況、研究分野の流れなど、自分ではコントロールできない要素もあります。

だからこそ、1件ごとの採択可能性を高める努力はしつつも、応募の機会そのものを増やすことも重要です。申請のチャンスは有限です。出さなければ採択される可能性はゼロですが、出せば可能性は残ります。申請すること自体に大きなデメリットはほとんどありません。使えるチャンスは、できるだけ活かすべきです。

4.やる気スイッチなど存在しない

文章がうまく書けないと、気分が乗らず、どうしても後回しにしたくなります。しかし、書かないという選択肢がない以上、いずれは書かなければなりません。

「やる気が出たら書く」と考えていると、多くの場合、いつまでたっても書き始められません。やる気が出るのを待つのではなく、まず少しだけ書く。すると、少しだけ気分が乗ってくることがあります。

やる気があるから行動できるのではなく、行動するから少しずつ気分が乗ってくる。この順番で考えた方が、申請書作成は進みやすくなります。

最初から長時間書く必要はありません。まずは、申請書ファイルを開く。見出しだけ入れる。背景を3行だけ書く。目的を箇条書きにする。図のラフを描く。それくらいで構いません。重要なのは、やる気が出るのを待たずに、作業を始めることです。

世の中には、やる気に関する本やノウハウがたくさんあります。それだけ多くの人が、やる気の出し方に苦労しているということなのでしょう。しかし、申請書作成に関しては、やる気を出す方法を探し続けるよりも、まずファイルを開いて、1行でも書く方が確実です。

申請書を書き切るために必要なのは、特別な才能や強烈なモチベーションだけではありません。完璧を求めすぎず、早めに始め、途中で投げ出さず、やる気が出る前に少しだけ手を動かすことです。

申請書は、提出しなければ採択されません。まずは最後まで書き、提出する。その経験を積み重ねることが、申請書作成の力を高める一番確実な方法です。