申請書を作らなければならない。頭ではわかっているのに、気持ちが重くなって手が止まってしまう。あるいは、書くことに苦手意識があり、何をどう書けばよいのかわからない。そう感じている人は少なくありません。
申請書作成で途中で挫折してしまう大きな理由は、能力が足りないからではなく、具体的な手順が見えていないからです。どこから考えればよいのか、何を先に決めるべきなのか、どの段階で文章を整えればよいのかがわからないまま書き始めると、当然ながら手が止まります。
特に、申請書を書くのに慣れていない人ほど、最初から「うまい文章」を書こうとしがちです。もちろん文章のわかりやすさは重要です。しかし、文章表現の技術を身につけるには時間がかかりますし、そこから始めてしまうと、肝心の研究内容や申請書全体の設計がおろそかになってしまいます。
申請書作成で最短で成果を出すには、文章テクニックから入るのではなく、学ぶ順番を間違えないことが重要です。
何をどの順番で学ぶべきか
科研費.comでは、少ない努力で大きな効果が出やすい順にコンテンツを配置しています。最初から細かな表現を磨くのではなく、まずは申請書の骨格を整える。そのうえで、必要に応じて見せ方や表現を改善していく。そうした順番で学ぶことで、効率よく申請書作成の力を高めることができます。
もちろん、どうしても時間が限られている人には添削サービスも用意しています。ただし、まずはご自身で基本的な考え方を学び、一度手を動かしてみることをおすすめします。
1.何を研究するか:研究テーマとアイデアの生み出し方
必要な時間 ★
得られる効果 ★★★
申請書を書くという作業は、研究テーマそのものを見直す機会でもあります。どれだけ文章を整えても、研究テーマそのものが弱ければ、申請書の説得力には限界があります。反対に、テーマの切り口がよく、問いが明確で、研究の意義が伝わりやすければ、その後の申請書作成はかなり楽になります。
良い研究は、良いテーマから始まります。ここでつまらないテーマ、伝わりにくいテーマ、審査員に価値が伝わりにくいテーマを選んでしまうと、その後でどれだけ文章を磨いても効果は限定的です。申請書を書き始める前に、「この研究は何がおもしろいのか」「なぜ今やる必要があるのか」「何が明らかになると分野が前に進むのか」を一度立ち止まって考えることが重要です。
2.何をどこに書くか:申請書をどのように書くか
必要な時間 ★★
得られる効果 ★★★★
申請書作成でもっとも効果が大きいのは、文章表現そのものではなく、「何をどこに書くか」を理解することです。うまく書けない人の多くは、文章が下手なのではありません。聞かれていることに答えていなかったり、同じ内容を何度も繰り返していたり、背景・目的・方法・独自性・波及効果が混ざってしまっていたりします。
申請書には、それぞれの欄に役割があります。背景には背景として書くべきことがあり、目的には目的として書くべきことがあります。方法の欄に研究の意義を書きすぎても伝わりませんし、独自性の欄で単に研究内容を繰り返しても評価にはつながりません。
大切なのは、聞かれていることに、聞かれている場所で答えることです。この感覚が身につくだけで、申請書はかなり読みやすくなります。文章を飾る前に、まずは申請書全体の構造を整える。これが、最も費用対効果の高い学びです。
3.どう見せるのか:どうすれば魅力的な申請書になるか
必要な時間 ★★★★
得られる効果 ★★
最後に取り組むべきなのが、申請書の見せ方です。図表の使い方、見出しの立て方、強調する言葉の選び方、審査員が読みやすいレイアウトなどは、申請書の印象を大きく左右します。内容がある程度固まっている段階であれば、見せ方を整えることで、申請書の伝わりやすさをさらに高めることができます。
ただし、見せ方はあくまで最後の仕上げです。研究テーマが弱いまま、あるいは申請書の構造が整理されていないまま、見た目だけを整えても大きな効果は期待できません。逆に、内容面での推敲がある程度終わっている場合には、直前の見直しとして非常に有効です。
実践とフィードバック
基本的な考え方を理解したら、あとは実際に書くしかありません。最初から完成度の高い文章を書こうとする必要はありません。まずは箇条書きでもよいので、研究の背景、目的、方法、独自性、期待される成果を書き出してみることです。粗くてもよいので、一度全体を形にする。そこから見直していく方が、何も書けないまま悩み続けるよりもはるかに前に進みます。
あわせて、すでに公開されている採択申請書を読むことも有効です。ただし、漫然と読むのではなく、「何を背景に書いているのか」「目的と方法がどう対応しているのか」「独自性をどのように説明しているのか」といった観点で確認すると、自分の申請書に足りないものが見えやすくなります。よく書けている申請書は、文章表現をまねるためのものというより、構成や説明の順番を学ぶための教材として読むとよいでしょう。
何度か書いていると、「この説明は使える」「この導入はわかりやすい」「この研究の売りはここだ」と感じられる部分が出てきます。うまく書けた文章は、他の申請書でも使い回しながら、少しずつ磨いていけばよいのです。申請書作成は、一回ごとにゼロから始めるものではありません。過去に書いた文章、図、説明、研究の位置づけは、次の申請書の材料になります。書けば書くほど、自分だけの申請書素材が蓄積されていきます。
また、申請書は自分だけで見直すには限界があります。自分では自然に読める文章でも、初めて読む人には背景がわからなかったり、目的と方法のつながりが見えにくかったりすることがあります。可能であれば、上司、同僚、共同研究者などに読んでもらい、「どこで引っかかったか」「何が伝わらなかったか」を教えてもらうとよいでしょう。細かな表現の修正よりも、読み手が理解できなかった箇所を知ることの方が重要です。
書きにくいところや、他人に読んでもらって伝わらなかったところには、たいてい何らかの問題があります。研究目的が曖昧なのか、方法と目的が対応していないのか、独自性が十分に言語化できていないのか。手が止まる箇所や指摘を受けた箇所は、申請書を改善するための重要な手がかりです。
一度書いたら、少し時間を置いて見直すことも大切です。書いた直後には自然に見えた文章でも、数日後に読むと、説明不足や論理の飛躍に気づくことがあります。書く。見直す。人に読んでもらう。少し間を置く。新しい知識を取り入れる。また書き直す。この繰り返しによって、申請書は少しずつ良くなっていきます。
時間が限られている場合や、自分ではどこが悪いのかわからない場合には、申請書の添削サービスを利用するのも一つの方法です。特に、何が伝わっていないのか、どこで論理が切れているのかを外部の目で確認してもらうことは、申請書を短期間で改善するうえで役立ちます。ただし、添削を受ける場合でも、最終的に申請書を書く力を高めるには、自分で考え、自分で直す過程が欠かせません。
年に一度の科研費や学振のシーズンだけ申請書を書くのであれば、うまく書けなくて当然です。申請書作成の力を高めたいのであれば、年間を通じて募集されている民間財団やその他の助成金にも積極的に応募することをおすすめします。申請書を書く機会が増えれば、申請書作成の能力は確実に上がります。そして、うまくいけば研究費の獲得にもつながります。
申請書作成は、特別な才能だけで決まるものではありません。正しい順番で学び、実際に書き、他人の目を通して見直し、また書く。その積み重ねによって、誰でも少しずつ上達していくことができます。