ランダムバナー

申請書をわかりやすく書き、主張をしっかりと審査員に伝えるためには論理的であることが求められます。では、どういった文章が論理的なのでしょうか?

論点の明確化

研究の目的を明確にし、具体的にどのように問題に取り組むのかを定義しましょう。これにより、審査員が研究の実現可能性や独自性を適切に評価しやすくなります。

よくあるダメな例は、

失敗例

本研究では、リンゴのおいしさと遺伝子の関係性を調査する。

のように、何を・どう評価するか、だけが書かれており、そこから何を主張したいのか、何を問題だと考えているのかが伝わりません。おいしさが遺伝子で決まっており、

また、「関係性」のように何を指しているのかあいまいな例も良く見かけます。

他にも目的が大きすぎる(期間内に終わらない)、総花的すぎる(あれもこれもしすぎ)なども論点がボヤけてしまう原因となります。

申請書の構成を明確にする

何をどこに書くかは、論理的な申請書を書くうえでとても重要です。審査員にとっては注目すべきポイントが明確になりますし、申請者にとっても内容の重複を避け、短い中にすっきりと書くことが可能になります。

科研費.comでは申請書の構成を非常に重要視しており、それぞれの要素ごとに内容を見ていくことにします。何をどこに書くかを参考にしてください。

主張と根拠を明確にする

科学的な文章の最小単位である「小さな主張」の繰り返しです。そしてその小さな主張を組み合わせて「中くらいの主張」とし、中くらいの主張を組み合わせて「大きな主張」とします。大きな主張とは全体を通じての主張そのものです。

基本的には、このようなマトリョーシカのように入れ子構造が明確な文章は論理的であるとみなされ、それを破ると非論理的とみなされます。

主張の最小単位「小さな主張」

(1)○○○は○○○である。(事実)
(2)研究の結果○○○というデータが得られた(結果) or 〇〇〇と
(3)このデータから○○○であると考えられる(根拠・推論)
(4)したがって○○○である(結論・主張)

(2)~(4)は一般的に認められた事実を述べているのではなく、あくまでも「私はこう考える」「私が調べた限りはこうだった」と言っているにすぎません。そのため、主張をより多くの人に受け入れてもらうためには、単に結果を示すだけでは十分ではありません。そのため、

例文

○○○という結果から○○○であることが示唆された。このことから、○○○だと考えられる。

のように、あなたの主張をわかりやすい形で宣言する必要があります。論理的でない文章の多くは(1), (2)だけが述べられており、(3), (4)が書かれていないか、不十分です。

たとえば

失敗例

本研究では、国内のA地域とB地域で生息する○○植物の開花時期を調査した。その結果、A地域では平均開花時期が4月5日、B地域では4月25日であった。また、両地域間で気温の平均値を比較したところ、A地域は15℃、B地域は12℃であることがわかった。本研究は重要な発見を含むものである。

のように結果だけを並べられても、日付と温度に関係があると言いたいのか、関係あると言いたいのだとしてもなぜそう言っていいのかは、分野外の審査員には理解できません。そのため、この文章から、だからどうだと言いたいのかを判断することはできませんし、申請者の主張が何に基づいているのかも理解できません。

申請者が、どう考えていて、その根拠はどこにあり、どういうことをしたら、どうなって(どうなると予想されて)、そこから何が言えて、それはどのような意味を持ちうるのか、について丁寧に議論を進める必要があります。

要素どうしのつながり

主張を組み合わせて大きくする

説得力という観点では小さな主張だけでは不十分です。別の方法でも同じような主張が可能である、他の方法でも矛盾しないなどのサポートデータを付け足すなど、複数の小さな主張を「結果」として組み合わせることでより大きな主張とすることができます。

(1)○○○は○○○であり、〇〇〇だと予想される。(事実と仮説)
(2)研究の結果、小さな主張が2つ3つ得られた(結果)
(3)このデータを総合すると○○○であると考えられる(根拠・推論)
(4)したがってアイデアは妥当である(結論・中くらいの主張)

さらにこの中くらいの主張を組み合わせれば大きな主張になる、というわけです。

このようにある主張はより大きな主張の一部として、どんどん組み合わせていくことが可能です。ただし、一度の研究でできるのは頑張ってせいぜい大きな主張までであり、入れ子構造を深くしすぎることはオススメしません。

入れ子構造を深くしすぎると全体がわかりにくかったり、主張の完全性を示しにくくなったりするからです。何より時間が足りません。

失敗例

〇〇〇の結果から、〇〇〇であると考えられる。これがもし事実ならば、〇〇〇の原因は〇〇〇であると推察される。このことが証明されれば、〇〇〇の応用にもつながると期待される。

論の流れを明確にするために適切なつなぎの言葉をいれ、関係を明確にする

論理的な文章でなくなってしまう、もう一つの理由は主張どうしのつなぎが甘いことにあります。もう一度、「小さい主張」を見てみましょう。

(1-1)○○○は○○○であり、〇〇〇だと予想される。(事実と仮説)
(1-2)研究の結果○○○というデータが得られた(結果)
(1-3)このデータから○○○であると考えられる(根拠・推論)
(1-4)したがって○○○である(結論・小さい主張1)

(2-1)(1-4)であることから、○○○であると考えられた。そこで…(仮説)
(2-2)そのことを確認した結果○○○というデータが得られた(結果)
(2-3)このデータから○○○であると考えられる(根拠・推論)
(2-4)したがって○○○である(結論・小さい主張2)

のように(仮説)は前の結論や主張を受けて立てられるものであり、小さな主張は独立して存在するのではなく、前の話を受けて次が展開されるものであり、連続したものです。この連続性が読み手に伝わらなければ、論理の飛躍と見なされてしまいます。

論理の飛躍と見なされる場合には、本当に論理が飛躍している場合と、申請者は明らかだと思っているが読み手は知らない(そうは思わない)という認識のズレの場合がありえます。後者のケースが相当数ありますので、読み手のレベルを予想すると同時に論の流れが自然かどうかについては丁寧にチェックする必要があります。

簡潔で明瞭な表現

申請書を読みやすくするにあるように、複雑な文や冗長な表現は避け、シンプルで明確な言葉を使うように心掛けてください。読み手が混乱しないように、情報を適切に整理して伝えましょう。

冗長な表現を避ける

研究における専門的な用語や背景説明が必要な場合でも、過度に冗長な説明は避けてください。複雑な概念や詳細なデータを示す場合は、箇条書きや短いセンテンスを活用し、一目で要点を理解できる形式を意識しましょう。

失敗例

〇〇〇の結果から、〇〇〇であると考えられる。これがもし事実ならば、〇〇〇の原因は〇〇〇であると推察される。このことが証明されれば、〇〇〇の応用にもつながると期待される。

  • 悪い例:本研究は、○○○の特徴をさらに詳細に、計測および分析を行い、実験を通じてその重要な性質を解明することを大きな目標としています。
  • 改善例:本研究は、○○○の特徴を計測・分析し、その性質を解明することを目的としています。

専門用語や略語を適切に使う

専門用語や略語は、読者の知識レベルを想定し、使いすぎに注意してください。一度出てきた用語や略語は適切に定義したうえで使い、繰り返し説明する時間を省略する一方で、わかりやすさを損なわないようにします。

失敗例

CITE-seq により、遺伝子発現の調整が環境条件に依存しており、それが発現量に大きな影響を与えることを示しました。

この例では、「CITE-seq」という専門用語が説明なく用いられているため、読み手にとって非常に分かりにくい内容になっています。科学技術の分野で査読を行う審査員といえども、必ずしも申請者と同じ分野の専門家ではありません。したがって、「CITE-seq」という手法がどのような特徴を持つのか、なぜその手法を使うのかを一文で簡潔に説明すべきです。また、「遺伝子発現の調整が環境条件に依存している」という記述においても、明確なデータや結果が提示されておらず、具体的に環境条件がどのように作用しているのかが不明確です。


一文を簡潔にまとめる

一文が長すぎると、主張の重要なポイントがぼやけたり、不必要に複雑に見えたりします。文章を分け、言いたいことを順序立てて説明しましょう。

失敗例

〇〇〇の結果から、〇〇〇であると考えられる。これがもし事実ならば、〇〇〇の原因は〇〇〇であると推察される。このことが証明されれば、〇〇〇の応用にもつながると期待される。

  • 悪い例:この研究では、Aという現象がBに影響を及ぼしているということを、Cという方法で解析し、それが時間的な要因が複雑に絡み合った結果で得られたものであり…(以下続く)。
  • 改善例:本研究は、AがBに与える影響を検証したものです。そのために、Cという方法を用いました。解析の結果、時間的な要因が複雑に絡み合っていることが示されました。

冗長な表現を避ける

申請書では限られたスペースで研究の内容や意義を伝える必要があります。そのため、余計な表現を省きシンプルに述べるよう心がけましょう。

失敗例

本研究は、○○○の特徴をさらに詳細に、計測および分析を行い、実験を通じてその重要な性質を解明することを大きな目標としています。

表現が冗長であること、内容が具体的でないこと、そして要点がはっきりしていないことが問題です。「○○○の特徴をさらに詳細に」としていますが、何をどのように調べるのかが明らかではありません。


具体的な情報を示す

漠然とした表現ではなく、具体的なデータや事実を挙げることで読み手に説得力を与えます。「何をしたのか? その結果、何が分かったのか?」という観点を常に意識しましょう。

失敗例

本研究は、○○○の解析と解明を通じて、社会に貢献することが期待されます。

一見すると高尚な研究と思わせるような表現に見えますが、実は内容が非常に漠然としており、何を主張したいのかが明確ではありません。「○○○の解析と解明」とありますが、○○○が具体的に何を指すのか、何をどのように解明するのかが全く記述されていないため、読み手が内容を想像する余地が大きすぎる文章です。


論理のつながりを明確にする

文章のつながりが不明瞭だと、主張が分断され、主目的が伝わりにくくなります。適切な接続詞やつなぎの表現を用いて、文章の流れを意識することが重要です。

失敗例

A地域では開花時期が4月5日となった。B地域は4月25日だった。気温は15℃と12℃だった

A地域とB地域の開花時期に違いがあること、そして気温に差があることは述べられていますが、これらのデータがどのような関係にあるのか、そしてそこから何が言えるのかが全く説明されていません。そのため、「だから何が問題なのか?」「どんな仮説が導き出されるのか?」という疑問が解消されません。

また、この文章は情報の羅列に終始しており、そこから考えられる仮説や解釈、意義が一切述べられていません。特に分野外の審査員にとっては、この情報だけでは何を主張したいのか理解することは困難です。データ間の因果関係や関連性が分かるような補足説明を提供しない限り、研究の目的や意義が全く伝わらない内容になっています。


適切な段落構成にする

情報がまとまっておらず無秩序に書かれると、読み手の理解を妨げてしまいます。段落ごとに主題を設定し、1つの段落で1つの主張を伝えるようにします。また、段落の冒頭や最後に要点を記述することで、補足的な情報をスムーズに伝えられます。


まとめ

  • 簡潔で明瞭な表現を使用することは、提出された申請書を読みやすくし、審査員に強い印象を与えるための基本です。
  • 複雑な文を避け、具体的なデータや情報を適切に示すことで、主張の説得力を高めましょう。
  • 一文一義を意識し、構成をわかりやすく整理することで、研究の意義や成果を論理的に伝えることができます。

このように簡潔で整理された書き方を心がけることで、申請書の評価を高めることができるでしょう。