定説に挑む研究では、「常識を覆す」と宣言する前に、定説を検証可能な命題へ直します。誰について、どの条件で、何が成立すると考えられているのか。その命題と競合する説明を置き、両者を区別する観察を設計します。
「定説」は、そのままでは検証対象にならない
申請書で挑戦性を示そうとして、「従来の定説を覆す」「既存概念を再構築する」と書くことがあります。しかし、何が定説なのか、どの範囲で成立すると考えられているのか、どの結果が得られれば見直しが必要なのかが示されていなければ、研究計画として評価できません。
実際の定説は、一つの短い文ではなく、対象、条件、因果関係、適用範囲が組み合わさった主張です。「AはBを促進する」という説明でも、特定の細胞だけに成立するのか、平常時と病態時で同じなのか、直接作用なのか別の因子を介するのかによって、検証すべき内容は変わります。
定説に挑む研究の出発点は、大きな言葉を選ぶことではありません。分野で共有されている説明を、観察によって支持・修正・限定できる一文へ変換することです。
「定説」と呼ぶ前に、合意の強さを確認する
一つの有名論文や教科書的な説明を、そのまま分野全体の定説として扱わないことも重要です。複数の研究で同じ関係が再現されているのか、特定の対象や測定法に依存する説明なのか、反対結果が例外として報告されているのかを確認します。
分野内で議論が続いている主張なら、「定説を覆す」より、「有力な二つの説明を判別する」と書く方が正確です。広く支持されている説明でも、対象や条件が限られているなら、「適用範囲を検証する」と位置づけます。対立相手を大きく見せるのではなく、現在の合意水準に合わせて研究の役割を定めます。
この確認によって、既に否定されつつある説明を新たに覆すと主張することや、限定的な知見を分野全体の常識として誇張することを避けられます。
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