文章の「贅肉」を削ぎ落としてください。「観察することができる」は「観察できる」へ。「重要なものとなった」の「もの」は「発見」や「転換点」へ。形式名詞の「こと」と抽象名詞の「もの」を削るだけで、あなたの文章は驚くほど筋肉質で力強くなります。審査員に負担をかけない、アスリートのような文体を目指しましょう。

画像案
「文章のダイエット」の図解。

  • 左(Before): 「~することが可能である」「画期的なものである」と書かれた、膨らんだ風船のような文字。「贅肉(ノイズ)」のラベル。
  • 右(After): 「~できる」「画期的な成果である」と書かれた、引き締まった鋼鉄のような文字。「筋肉(コア)」のラベル。

Part 2: 【有料エリア】(記事本文)

タイトル:「こと」と「もの」を削ぎ落とせ:申請書を“筋肉質”に変える、究極の文章ダイエット術

パターンAを選択しました。

1. 導入:その文章、メタボリックシンドロームになっていませんか?

「本研究は、〜を明らかにすることを目的とするものである。」
「この技術を用いることで、測定することが可能となる。」

ご自身の申請書を見返してみてください。このような語尾が続いていないでしょうか。
日本語として間違いではありません。しかし、科研費の申請書において、これらは**「文章の贅肉(Fat)」**です。

形式名詞である「こと」や、抽象名詞である「もの」を多用すると、文章のリズムが間延びし、論旨がぼやけます。審査員は限られた時間で大量の書類を読みます。無意味な文字数(ノイズ)が増えれば増えるほど、肝心な「中身」が頭に入らなくなります。

求められているのは、贅肉を削ぎ落とし、論理の骨格が浮き彫りになった**「筋肉質な文章」**です。今回は、この2つの単語を削るだけで、文章の説得力を劇的に高めるリライト術を伝授します。

2. 根拠となる理論:認知的負荷の軽減

なぜ「こと」「もの」を削るべきなのか。それは**「認知的負荷(Cognitive Load)」**を下げるためです。

  • 「こと(形式名詞)」の弊害:
    「観察することができる(10文字)」と「観察できる(5文字)」は、全く同じ意味です。しかし、前者は後者の2倍の文字数を読ませます。意味のない文字を読ませることは、審査員の脳のリソースを無駄遣いさせる行為です。
  • 「もの(抽象名詞)」の弊害:
    「重要なもの」と言われた時、脳は「もの=物体? 現象? 結果?」と一瞬迷います。このコンマ数秒の迷いが蓄積すると、「読みにくい」という印象に変わります。

言葉を短く、具体的にすることは、単なる時短テクニックではなく、**「審査員の脳への配慮(Hospitality)」**なのです。

3. 具体例の提示:Before/After

それでは、贅肉たっぷりの文章を、引き締まった文章に変身させましょう。

【Technique 1:「こと」の削除(Action化)】

動詞を名詞化(〜こと)してから述語につなぐ癖をやめ、動詞そのものを述語にします。

  • Before:本手法を用いることで、微細な構造を可視化することが可能となる。(26文字)
  • Analysis:
    「こと」が2回使われています。「可能となる」という回りくどい表現も、自信のなさを感じさせます。
  • After:本手法を用いれば、微細な構造を可視化できる。(19文字)
    (または:本手法は、微細な構造を可視化する。)
  • 解説:
    文字数が約3割減りました。意味は全く変わっていませんが、言い切り型になったことで「自信」と「スピード感」が生まれています。

【Technique 2:「もの」の具体化(Definition化)】

「もの」という便利な代名詞を使いたくなったら、それが具体的に何を指すのか、専門用語に置き換えます。

  • Before:予備実験の結果は、従来の定説を覆す画期的なものである
    阻害要因となるものを排除する必要がある。
  • Analysis:
    「もの」が何を指しているのか曖昧です。画期的な「発見」なのか「データ」なのか。「要因となるもの」は重複表現です。
  • After:予備実験の結果は、従来の定説を覆す画期的な「発見(または証拠)」である
    阻害要因となる**「ノイズ(または夾雑物)」**を排除する必要がある。
  • 解説:
    「もの」を「発見」「ノイズ」といった具体的な名詞に変換しました。これにより、文章の解像度が上がり、専門性の高さが伝わります。

【Technique 3:複合技(筋肉質の極致)】

  • Before:本研究の目的は、〇〇のメカニズムを解明することである。これは、将来の創薬ターゲットとして期待されるものである
  • After:本研究は、〇〇のメカニズムを解明する。本成果は、将来の**「創薬ターゲット」として期待される。
    (または:本研究の目的は、〇〇のメカニズム解明
    にある**。)

4. まとめ:実践のためのセルフチェックリスト

書き上げた申請書に対し、Ctrl+F(検索機能)を使って「ダイエット」を実行してください。

  1. 「こと」検索:
    • 「〜することができる」→「〜できる」
    • 「〜ということである」→「〜である」「〜を意味する」
    • 「〜を行うこととする」→「〜を行う」
  2. 「もの」検索:
    • 「重要なもの」→「重要な知見」「重要な課題
    • 「期待されるもの」→「期待される成果」「期待される波及効果
    • 「〜というものである」→「〜である」(単に削除)

文章の美しさは、足し算ではなく引き算で生まれます。
「こと」と「もの」を削ぎ落とし、骨太な論理だけで構成された申請書は、審査員の心にダイレクトに届きます。今日からあなたの文章をアスリート化してください。