問題や課題を指摘するだけでは読む側は納得できません。読み手を説得するために、なぜこれまでそうした研究が実施されてこなかったのか、なぜそれが解決すべき(実施すべき)課題なのかを説明します。
例えばこうです。
ウイルスはヒトの癌の15%~20%に関与すると考えられているため、ヒトの悪性腫瘍に関する共通メカニズムを明らかにするための重要なツールとなる。成人T細胞白血病・リンパ腫 (ATLL) の病因であるヒトT細胞白血病ウイルスI型 (HTLV‐1) はまさにそのようなウイルスであり、遺伝子発現や細胞増殖・アポトーシス、極性の決定を含む細胞内の重要な経路を調節する強力な腫瘍タンパク質Taxをコードしている。
長年の研究により、Taxを介したさまざまな細胞プロセスが明らかにされており、悪性腫瘍の形成メカニズムを明らかにするための有効なモデル系であることが証明されてきた[Smith et al., 1999; Tanaka et al., 2000]。Taxは細胞を形質転換し、種々のトランスジェニックマウスモデルで腫瘍を誘導することが示されており、申請者らも〇〇〇を〇〇〇することで、〇〇〇は〇〇〇であることを明らかにしてきた[Suzuki et al., 2000]。
しかし、こうした取り組みにもかかわらず、Taxが細胞を形質転換するメカニズムは十分に理解されていない。これまでに多数のTax変異体が生成され、それらの活性は主に細胞培養系で明らかにされてきたものの、利用可能なトランスジェニックモデルにおけるTax変異体の遺伝子導入位置やコピー数、発現レベルなどが多様であるため、Tax変異体の形質転換能の評価は困難であった。
この文章を例に、以下の2つのポイントを見ていきましょう。
ポイント1:これまで解決・実施されてこなかった理由
利用可能なトランスジェニックモデルにおけるTax変異体の遺伝子導入位置やコピー数、発現レベルなどが多様であるため、
「なぜそれが問題か」には2つの意味があります。1つ目はこれまでなぜその問題は解決されてこなかったのか、なぜその課題に取り組む人はいなかったのか?という質問です。
もし本当にこの問題が重要であるなら、すでに誰かが取り組んでいてもおかしくはありません。しかし、現実にはそうはなっていないから申請者はそのことが問題だと指摘しています。では、なぜこれまでだれも取り組んでこなかったのか、あるいは取り組んだが成功してこなかったのでしょうか?
このような状況になった原因としてはいくつかの可能性が考えられます。
- 本当は重要な問題であるにもかかわらず、誰もそれが重要な問題だとは気づいてこなかった。
- 既に何人かが(皆)取り組んできたが、技術不足などの理由によりうまく行かなかった。
- そもそも非常に難しい課題であり、明らかに解決できそうにないので、みな敢えて挑戦してこなかった。
- そもそも非常にくだらない課題であり、明らかに研究する価値が無いので、みな敢えて挑戦してこなかった。
これらの理由のうち、最後の理由(くだらないから誰も扱ってこなかっただけ説)は非常に危険であり、もしこうだとすると、この研究計画の価値は無くなってしまいます。ですので、申請者としてはそれ以外の理由により、「重要な課題であるにもかかわらず未解決のまま放置されていた」と主張する必要があります。
例文では形質転換における不統一(技術的な問題)を原因として挙げています。
ポイント2:解決・実施すべき理由
<例文では「悪性腫瘍の共通メカニズム」研究の重要性は明らかであることから、省略されています>
「なぜそれが問題か」には2つの意味があります。。例文では省略されていますが、2つ目はこれまでなぜその問題は(他の問題より優先して、いま、あなたが)解決すべきか?という質問です
どんなに重要な問題であっても、誰も何も困っていなければ、研究の優先度は下がります。また、歴史学者が半導体における重要な課題を解決できるとも思えません。こうしたことから、「いま」「あなたが」「他の問題より優先して」解決すべき理由を挙げられるのであれば、この問題に取り組むべき理由はかなり明確になります。