「我々は、この実験を行いました」
修論の発表会でそう言った瞬間、審査員の教授からこう叱責された学生がいました。
「『我々』って誰? 君は指示された作業をやっただけなの?」

逆に、学会発表で「私はこれを発見しました」と連呼し、**「共同研究者の存在を無視する傲慢なやつだ」**と後ろ指を指される研究者もいます。

研究発表における「一人称(主語)」は、単なる言葉のあやではありません。**「誰の責任で、誰の成果として発表しているか」**というポジショニングの表明です。
今回は、TPOに合わせた主語の使い分けと、トラブルを回避する「謝辞(Acknowledgment)」の鉄則を解説します。


1. 学位審査(修論・博論)の主語は「私(I)」

修士論文や博士論文の審査会、あるいは就職活動の面接。
これらに共通するのは、**「あなた個人の能力を審査する場」**であるということです。

ここで「我々(We)」を多用すると、「研究室のプロジェクトに乗っかっただけではないか?」「主体性がないのでは?」と疑われます。

鉄則

  • 主語: 基本的に**「私(I)」**を使う。
  • アピール: 共同研究であっても、「私がここを提案し、私がここを解析した」という**「自分の貢献(Contribution)」**を明確にする。

謙遜は不要です。堂々と「私がやりました」と言い切ってください。


2. 学会発表の主語は「我々(We)」

一方、学会やシンポジウムは、**「チームの代表」**として成果を報告する場です。
実験を手伝ってくれた後輩、指導してくれた教官、ディスカッションした共同研究者。彼ら全員の代表として、あなたは演台に立っています。

ここで「私(I)」を連発すると、「手柄を独り占めしている」と見なされ、共同研究者との関係が悪化するリスクがあります。

鉄則

  • 主語: 基本的に**「我々(We)」**を使う。(Our study, We found that…)
  • アピール: 「私たちのチームの成果」として提示する。

【図版指示 1】

  • 内容:TPOによる主語の使い分けマトリクス。
  • 構成要素:
    • 左側(学位審査・面接):スポットライトが「発表者一人」に当たっている図。「主語:私(I)/目的:個人の能力証明」
    • 右側(学会発表):発表者の後ろに「研究室のメンバー」が透けて見えている図。「主語:我々(We)/目的:チームの成果報告」

3. 表紙(Title Slide)の「名前」の書き順

スライドの1枚目、タイトルスライドに名前を載せる時にもルールがあります。

  1. 演者(自分): 一番上に、大きく書く。名前の前に「○(発表者マーク)」をつけるのが日本のアカデミック慣習です。
  2. 共同研究者: 自分の下に、少し小さく列記する。
    • 順番: 貢献度順(論文の著者順と同じにするのが無難)。
    • 所属: 所属が違う場合は、名前の肩に「*1, *2」と番号を振り、下部に所属機関を書く。
  3. 指導教官(PI): 最後に書く(Last Author)。

名前を省略してはいけません。共同研究者の名前を載せ忘れることは、研究の世界では「絶縁状」を叩きつけるに等しい行為です。必ず全員分記載しましょう。


4. 謝辞(Acknowledgment)の正しい序列

発表の最後(Summaryの後、または前)に入れる「謝辞」。
ここには「お世話になった人」と「お金をくれた組織」を書きますが、書く順番を間違えると失礼にあたります。

推奨される記載順

  1. 共同研究者(Co-authors):
    • 他大学の先生や、実験に協力してくれた企業の方など。
  2. 研究室メンバー・指導教官:
    • 日々の議論やサポートへの感謝。
    • ※集合写真を載せると、会場の空気が和み、好感度が上がります。
  3. 技術支援・サンプル提供:
    • 細胞やマウスを提供してくれた人、解析機器の管理者など。
  4. 資金提供元(Funding):【最重要】
    • 科研費(KAKENHI)、JST、民間財団など。
    • 必須ルール: 必ず**「課題番号(Grant Number)」**を記載すること。
      • 例:「本研究は JSPS科研費 JP12345678 の助成を受けたものです。」
    • これがないと、業績として認められない場合があります。ロゴマークも並べると親切です。

【図版指示 2】

  • 内容:Acknowledgmentスライドのレイアウト例。
  • 構成要素:
    • 左側: テキストリスト。
      • Special Thanks to:
      • Dr. Tanaka (Univ. of Tokyo) … [共同研究者]
      • Yamada Lab members … [研究室]
    • 右側: 研究室の集合写真(笑顔)。
    • 下部: 「Funding」として、科研費やJSTのロゴと、課題番号。
    • キャプション:「『お金』と『人』への感謝を忘れない」

まとめ:マナーは「身を守る盾」である

これらは「形式的で面倒くさい」と思うかもしれません。
しかし、主語を使い分け、共同研究者に敬意を払い、資金源を明記することは、**あなた自身がトラブルに巻き込まれないための「盾」**になります。

  • 修論は「私」、学会は「我々」。
  • 名前は全員載せる。
  • 科研費番号は忘れない。

この作法を守って初めて、あなたは「一人前の研究者」としてコミュニティに受け入れられます。
最後の一枚まで気を抜かず、完璧なプレゼンテーションを締めくくってください。