申請書の見出しの前に1行の空白を設けるだけで、文章の構造が視覚的に際立ち、疲労した審査員でも内容を的確に把握できるようになります。文字で埋め尽くすことよりも、視覚的な負担を減らす視点が不可欠です。

情報を詰め込むほど伝わらなくなるという陥穽
科研費の申請書を作成する際、多くの研究者が無意識のうちに陥りやすい誤った前提が存在します。それは、用意された指定の枠内を文字で一切の隙間なく埋め尽くすことこそが、研究への熱意や計画の緻密さを示す唯一の証明になるという思い込みです。規定の範囲内で文字のサイズを小さく設定し、行間を詰め、図表の周囲の余白すら削り落として情報を詰め込もうとする姿勢は、執筆している本人からすれば研究に対する真摯な態度の表れに思えるかもしれません。
しかし、この前提は、書類の読み手である審査員の置かれた過酷な状況を著しく無視しています。審査員は、自身の日常的な研究活動や教育業務、学内の事務対応といった多忙なスケジュールの合間を縫って、数十件にも及ぶ申請書を短期間で集中的に読み込む必要があります。深夜や週末の疲労が蓄積した状態で文字が黒々と密集した書類を開いたとき、審査員が最初に感じるのは優れた研究内容への期待ではなく、視覚的な重圧と読むことに対する心理的な抵抗感です。
文字が密集した文章は、どこから読み始め、どこで区切りをつければよいのかという文章全体の構造把握を極めて困難にします。人間の脳は視覚情報を受け取って処理する際、全体の輪郭や構造を捉えようとしますが、余白のない文章ではその視覚的な手がかりが得られません。結果として審査員は、文章の内容を深く理解する作業に入る前に、どこになにが書かれているのかを解読するという余計な認知的な労力を強いられることになります。情報を詰め込めば詰め込むほど、皮肉にもその情報は相手の頭に入りにくくなるという現象が生じます。
このアーカイブはゴールド会員限定です
この記事は、毎年 5月19日 の当日のみ無料公開されます。
本日は対象外の日付のため、アーカイブの閲覧にはゴールド会員への登録が必要です。
所属機関に有料版をおねだりしませんか?