「国際学会で発表します」は国際性の証明になりません。審査員が求めているのは、手段の羅列ではなく「日本発の特殊な研究が、いかに世界の普遍的な課題を解決し、潮流を変えるか」という論理構造です。ローカルな研究をグローバルな文脈へ昇華させる記述法を解説します。

導入

申請書の「国際的な研究動向」や「国際性」に関する欄において、多くの申請者が以下のような記述で終わらせてしまいます。

「得られた成果を積極的に国際学会で発表する。」
「海外の共同研究者と議論を深める。」

これらは研究活動の手段にすぎず、審査指針が求める「将来的に世界の研究をけん引する」という要件に対する回答にはなっていません。国際学会での発表は、研究者として当然の行動であり、それ自体が評価されるわけではないのです。

審査員がこの項目で見ているのは、あなたが海外に行く予定ではありません。あなたの研究成果が世界の知識体系にどのようなインパクトを与え、流れを変えるのかという論理的必然性です。手段の羅列から脱却し、真のリーダーシップを示すための記述戦略を解説します。

[/365gate]

根拠となる理論

「国際性」を高く評価させるためには、単に英語ができることや海外経験があることを示すのではなく、以下の2つの論理ステップを構造化する必要があります。

1. 現在地の明確化(競争優位性)
「将来牽引する」と主張するためには、「現在、世界の中でどの位置にいるか」を示す必要があります。根拠のない未来予測は説得力を持ちません。
「この技術を持っているのは世界で我々だけである」「この規模の長期データは日本にしか存在しない」といった、現時点での圧倒的な強みを提示することが、世界へ打って出るためのパスポートとなります。

2. 特殊性から普遍性への昇華
特に人文学・社会科学や、地域固有の課題を扱う研究において重要です。「日本独自の研究(特殊性)」が、なぜ「世界中の研究者にとって価値があるのか(普遍性)」を論理的に接続しなければなりません。
「日本でしかできない研究」から得られた知見が、世界のモデルケースとなったり、他国の類似課題に対する解決策になったりするプロセスを描くこと。これが「国際的な貢献」の本質です。

具体例の提示

それでは、よくある「手段の羅列」にとどまった記述と、論理的に牽引力を示した記述を比較・分析します。

Before:よくある失敗例

本研究の成果は、積極的に国際学会(ACS、MRS等)で発表し、論文を国際誌に投稿することで世界に発信する。また、以前から交流のある米国・〇〇大学の××教授と適宜議論を行い、国際的な視点を取り入れる。これにより、我が国の研究の国際的なプレゼンス向上に貢献する。

Analysis
この文章には「あなたである必然性」が全くありません。

  • 具体性の欠如: どの研究者でも書ける定型文であり、現状の優位性が見えません。
  • 受動的な姿勢: 「議論を行い」「視点を取り入れる」という表現は、海外の研究に追随する姿勢に見え、「牽引する(リーダーシップを取る)」姿勢とは逆行しています。
  • 論理の飛躍: 発表するだけでなぜプレゼンスが向上するのか、そのメカニズム(研究内容のインパクト)が語られていません。

After:劇的に改善された修正案
【国際的な競争優位性と波及効果】

本研究で用いる「〇〇測定法」は、申請者が独自に開発した世界唯一の技術であり、従来の限界であった××nmの分解能を突破している。この技術的優位性は、現在、世界中の研究者から注目されており(招待講演実績等)、本研究の成功は当該分野の技術標準を日本発で塗り替える可能性が高い。

【特殊性から普遍性への展開】

本研究は日本特有の〇〇現象を対象とするが、そこで得られる「××メカニズム」は、世界共通の課題である△△問題の解決に直結するモデルとなる。すなわち、日本の特殊事例解析というローカルな作業から、人類共通の原理というグローバルな知見を導き出す点に、本研究の真の国際的価値がある。

【我が国のプレゼンス向上】

以上より、本研究の成功は、当該分野にブレークスルーをもたらし、我が国の学術的プレゼンスを国際社会に示す上で極めて高い価値を有する。単なる成果発信にとどまらず、世界が本研究の成果を参照し、追随するという形で世界の研究を力強く牽引する。

Analysis

  • 現在地の提示: 「世界唯一の技術」「従来の限界を突破」と明記し、現時点でトップランナーであることを示しています。
  • 論理的な接続: 「日本特有(特殊)」から「世界共通課題の解決(普遍)」へのロジックにより、なぜ日本の研究が世界に必要なのかを説明しています。
  • 強い結び: 「牽引する」の意味を「他者が追随する状態」と定義し、リーダーシップを明確に宣言しています。

応用と発展

この書き方は、国際性の欄だけでなく、研究の「背景」や「目的」の記述にも応用できます。

「特殊性」を「モデルケース」と言い換える
地域研究や特定の生物種を扱う研究では、どうしても「狭い研究」に見られがちです。しかし、その狭さを逆手にとってください。「特殊だからこそ、変数を制御した理想的なモデルケースになる」と主張するのです。
例えば、「日本の少子高齢化」はつい最近までは日本特有の問題でしたが、世界的に見れば「人類が初めて直面する課題の最先端」であり今後世界が直面する課題です。日本をフィールドにすることは、世界の未来をシミュレーションすることと同義になります。このように、ローカルな対象をグローバルな文脈の「最先端事例」として位置づけ直すことで、論理の強靭さは格段に向上します。

まとめ

「国際性」の項目を書き終えたら、以下の3点を確認してください。

  1. 「発表する予定」で終わっていないか?
    発表は手段にすぎません。「発表した結果、分野の常識がどう変わるか」まで踏み込んで書いてください。
  2. 「現在地」が示されているか?
    未来の希望だけでなく、現在の強み(独自資料、独自技術、先行優位性)を客観的事実として記載してください。
  3. 「特殊」から「普遍」へのパスが見えるか?
    「日本独自のすごい研究」で終わらせず、それが「世界の知の体系」にどう接続されるか、その架け橋を言葉にしてください。

審査員は、あなたが「海外に行くこと」を支援したいのではなく、「世界を驚かせる日本発の研究」に投資したいのです。その期待に、論理で応えてください。

[/365gate]