申請書は論文ではなく英雄の物語です。海外の鉄板テンプレート「Dr. Karen’s Foolproof」も、日本の「桃太郎」も構造は同じです。①村の平和(広い背景)②鬼の出現(深刻なギャップと弊害)③きび団子(独自の解決策)④鬼退治(具体的な計画)。この型にはめるだけで、あなたの研究は「採択される必然性」を帯びます。

画像案
「桃太郎」と「科研費」の対訳構造図。
左右対照で以下を図解する。

  • 日常(平和な村): 広い学術的背景(Broad Context)
  • 事件(鬼の悪行): 先行研究の限界と、放置した場合の弊害(Gap & Urgency)
  • 決意(鬼退治): 本研究の目的・問い(Research Question)
  • 武器(きび団子): 独自の着想・予備データ(Idea & Feasibility)
  • 結末(宝の持ち帰り): 学術的・社会的波及効果(Impact)

1. 導入:論文の脳で書いてはいけない

「研究内容は優れているのに、なぜか採択されない」
そう嘆く研究者の多くは、申請書を「論文の要約」あるいは「事実の羅列」として書いています。

しかし、審査員は人間です。専門外の分野も含め、膨大な数の申請書を読まされる彼らの脳は、無機質な情報の羅列を拒絶します。彼らが求めているのは、頭を使わずにすっと入ってくる「物語(ストーリー)」です。

海外のグラント獲得競争において、”The Hero Narrative”(英雄の物語)という概念はスタンダードです。これは決してファンタジーを書けという意味ではありません。論理構成を、人間が最も共感しやすい「神話の法則」に合わせるという、極めて認知科学的な戦略なのです。

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2. 概念の再定義:桃太郎とDr. Karenの融合

本記事では、米国の著名なグラント指導者であるKaren Kelsky博士が提唱する「Foolproof Research Proposal Template(絶対に失敗しない申請書テンプレート)」を、日本の誰もが知る「桃太郎」の物語構造に翻訳して解説します。

申請書における「英雄(ヒーロー)」とは、あなた自身、あるいはあなたの「研究アイデア」です。
そして、その英雄が倒すべき「鬼」とは、学術界における「未解明の課題(Gap)」です。

この構造を意識するだけで、あなたの申請書は「単なる計画書」から「課題解決への冒険譚」へと進化します。

【物語の4段階構造】

  1. 広い背景(あるところにおじいさんとおばあさんがおりました): 誰もが知る一般的なトピック
  2. 問題の所在(鬼が悪さをしています): 知識の欠落とその弊害(緊急性)
  3. 解決策の提示(桃太郎が仲間と鬼退治に向かいます): あなたの研究だけが持つ武器
  4. 未来(いつまでも平和に暮らしましたとさ): 研究完成後の世界

3. 具体的実践法:テンプレートへの落とし込み

では、具体的に各パートをどう記述すべきか、論理の型を提示します。

① 広い背景:ニッチな話から始めない

  • 物語: いきなり「きび団子の成分」の話をしてはいけません。まずは「村の人々が平和に暮らすことの大切さ」から始めます。
  • 実践: たとえニッチな専門分野(例:中世フランス文学や特定の酵素)であっても、書き出しは「親や隣人が理解できるレベル」の広いトピック(移民問題、気候変動、細胞の恒常性など)に設定してください。
    審査員全員があなたの専門家ではありません。まず「これは我々全員に関係する話だ」と思わせる「呼び水」が必要です。

② 知識の欠落と緊急性(鬼の悪行)

  • 物語: 「しかし、鬼が出てきて村を荒らしている」という危機的状況を描写します。単に「鬼がいる」だけでなく、「今退治しないと村が滅びる(困っている)」という緊急性が必要です。
  • 実践: 先行研究を手短に紹介した上で、決定的な一文「However(しかし)」を投入します。

「〇〇については多くの研究がある。しかし、××の視点は完全に欠落している」

さらに重要なのは、「その知識が欠落していると、どんな弊害があるか」を書くことです。

「この点を解明しなければ、我々は〇〇という現象を永遠に誤解したままになる(弊害)」

この「痛み」の提示が、研究費を投入する正当性になります。

③ 解決策の提示(英雄の登場)

  • 物語: 「そこで桃太郎は、特別なきび団子を持って鬼退治に行く決意をした」
  • 実践: ここで初めて、主語が「本研究」になります。

そこで本研究では、独自に開発した△△という手法(きび団子)を用いて、このギャップを埋める」

ここでは、なぜ他の誰でもなく、あなたがそれを解決できるのかという「根拠(予備データ)」をちらりと見せ、実現可能性をアピールします。

④ 強い結論(ハッピーエンド)

  • 物語: 「鬼はいなくなり、村には平和が戻り、さらなる繁栄が訪れた」
  • 実践: 研究の技術的な成功だけでなく、その先にある「議論への貢献」を断言します。

「本研究の完成により、〇〇問題に関する議論は新たなフェーズに入り、××の分野に決定的なパラダイムシフトをもたらす」

4. まとめ:明日から意識すべき行動指針

このテンプレートを使う際の最大の注意点は、「冒頭の長さのコントロール」です。

  1. 背景と問題(①・②)はコンパクトに: 全体の2割程度に収めます。文献レビューの海に溺れないでください。あくまで「鬼がいかに凶悪か」を説明するための前置きです。
  2. 解決策(③)こそがメイン: 審査員が見たいのは、あなたの鬼退治の計画であり、もっと言えばその背景にあるアイデアです。
  3. 接続詞を点検する: 「広い話題」→「しかし(GAP)」→「もし放置すれば(緊急性)」→「そこで本研究は(解決)」という接続詞のリレーが繋がっているか確認してください。

あなたの研究は、人類の知識の最前線における「鬼退治」です。その壮大なストーリーを、正しい型にはめて審査員に届けてください。

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