基盤研究(B/C)は若手研究の延長戦ではありません。審査員が求めるのは、未知へのポテンシャルではなく、確実な投資に対するリターンです。確約された守り7割に、飛躍の攻め3割を配合します。この黄金比率で採択される申請書を目指す戦略を解説します。

1. 導入:若手の「勢い」は、中堅の「危うさ」になる
「若手研究」から「基盤研究」へステップアップする際、多くの研究者が同じトーンで申請書を書いてしまい、不採択となります。
若手区分では、多少荒削りでも、独自のアイデアと熱意があるか(将来性)が評価されました。しかし、基盤研究(特にB)において、審査員の視点はシビアな投資家へと変化します。
数百万から一千万円を超える公的資金を投じる際、審査員が最も恐れるのは資金の焦げ付き(成果ゼロ)です。
ここで世界を覆す革命的な仮説だけを声高に叫ぶと、「本当にできるのか?」「博打に税金は使えない」と警戒されます。一方で、確実にできることだけを並べると、「わざわざ科研費でやる必要はない(面白くない)」と却下されます。
中堅以降の戦いで必要なのは、夢想家としてのロマンではなく、実務家としてのバランス感覚です。
安定した成果(配当)を約束しつつ、大きな成長(キャピタルゲイン)も狙う。この相反する要素を一つの申請書に共存させる戦略が必要です。
2. 概念の再定義:「7:3のポートフォリオ・モデル」
基盤研究の申請書を、一つの「金融商品」として捉え直してください。
目指すべきは、手堅い国債(実績)とハイリスク株(挑戦)を適切な比率で組み合わせたポートフォリオの構築です。
推奨する黄金比率は、実績(守り)7:挑戦(攻め)3です。
7割の「守り」
これは、採択されれば「確実に論文が出る」部分です。
- すでに予備データがある。
- 手法が研究室で確立されている。
- 予想通りの結果が出ても、十分に学術的価値がある。
審査員に対し、「最悪の場合でも、この計画の7割は完遂され、成果報告書は空白になりません」という安心感を提供します。
3割の「攻め」
これは、うまくいけば「分野の常識が変わる」部分です。
- まだ予備データは弱いが、論理的に面白い仮説。
- 新しい技術や異分野との融合。
- ハイリスクだが、当たればリターン(インパクト)が大きい。
審査員に対し、「この投資には、単なるデータの積み上げ以上の『夢』があります」という期待感を提供します。
多くの不採択申請書は、この比率が歪んでいます。
- 実績1:挑戦9 → 無謀(実現可能性が低い)
- 実績9:挑戦1 → 退屈(オリジナリティ不足)
「7割の堅実な足場の上で、3割の冒険をする」。この構造を脳内に描いてください。
3. 具体的実践法:申請書への落とし込み
この「7:3」の概念を、実際の申請書の各項目にどう配置するか、具体的な戦術を解説します。
① 「研究目的」での書き分け
目的の概要では、まず7割の実績ベースの話で「解けること」を宣言し、その後に3割の挑戦を接続します。
(7割の守り)本研究の第一の目的は、申請者が独自に構築した〇〇解析系(予備データあり)を用いて、××現象の基礎的メカニズムを定量的に解明することである。これにより、長年の課題であった△△の制御が可能となる。(3割の攻め)さらに本研究では、得られた知見を応用し、従来不可能とされてきた□□領域への適用(挑戦的課題)を試みる。これが達成されれば、当該分野にパラダイムシフトをもたらすものである。
このように書くことで、審査員は「前半は確実にできそうだし、後半のチャレンジも応援したい」という心理状態になります。
② 「研究方法」におけるリスクヘッジ
方法欄では、3割の「挑戦」部分が失敗した場合のバックアップ(プランB)を明記することが必須です。
- 「もし仮説Aが支持されなかった場合でも、並行して行う解析Bによって〇〇という側面からの成果は保証される。」
- 「新規手法Xの導入が困難な場合は、既存手法Y(申請者が熟達済み)を用いて代替的なデータを取得する。」
これにより、「この研究者はリスク管理ができている(=プロジェクトマネージャーとしての能力がある)」という信頼(Credit)を獲得できます。
③ 「研究業績」の戦略的配置
「7割の守り」を裏付けるために、過去の業績リストを活用します。
単に論文を羅列するのではなく、本文中で「この手法については、業績リストNo.3およびNo.5ですでに確立済みである」と参照してください。
「実績があるから、この7割は絶対に失敗しない」という論拠として業績を使うのです。
4. まとめ:明日から意識すべき行動指針
基盤研究(B/C)は、研究者としての「総合力」が試されるリングです。
以下の基準で、構想中のテーマを監査してください。
- 「絶対に出る結果」はあるか?
- もし実験がすべて失敗しても、何らかの論文が書けるような「堅いデータ」が計画に含まれていますか?(全体の7割)
- 「ワクワクする展開」はあるか?
- 堅いデータだけでは勝てません。審査員が「おっ」と身を乗り出すような、少し背伸びした挑戦が含まれていますか?(全体の3割)
- リスクヘッジは明記されているか?
- 挑戦部分が失敗したときの「保険」が、論理的に説明されていますか?
若手研究の時代は、無鉄砲な勇気が武器でした。
しかし今は、盤面全体を支配し、勝利を確実なものにする戦略が武器となります。
「堅実にして大胆」。この矛盾する要素を黄金比率で統合し、審査員に「これなら安心して投資できる」と言わせて勝利を掴んでください。