「本研究は世界初である」と書くよりも、「教科書の記述は不完全である」と書く方がインパクトがあります。しかし、定説への攻撃は諸刃の剣。根拠なき批判は不遜とみなされます。敵(定説)を敬意を持って定義し、データという凶器で鮮やかに介錯する。最強の独自性「ラグナロク型」の書き方を解説します。

前回、独自性の4つの型の中で最強の攻撃力を持つと紹介した「ラグナロク(革命)型」。
これは、既存の定説(ドグマ)を否定し、新しいパラダイムを提示するスタイルです。
決まれば最高評価は間違いなしですが、失敗すれば「生意気だ」「勉強不足だ」と叩き落とされるハイリスクな型でもあります。
この型を使いこなすための絶対条件は、「感情」で批判せず、「事実」で転覆させることです。
今回は、定説を敵に回しても審査員を味方につけるための、鉄壁のライティング技術を解説します。
1. 導入:なぜ「批判」は嫌われるのに、「革命」は愛されるのか
審査員の中には、その定説を作った張本人がいるかもしれません。
そこで「従来説は間違っている」と雑に書けば、喧嘩を売っているのと同じです。
しかし、科学者は真実には逆らえません。
「間違っている」と言うのではなく、「これまではこう考えられてきた(敬意)。しかし、このデータだけは説明がつかない(事実)。」と提示された時、審査員は「なるほど、定説を修正せざるをえないな」と納得します。
ラグナロク型の極意は、「定説」を過去の遺物として葬り去るための丁寧な手続きにあります。
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2. 根拠となる理論:「パラダイムシフト」の3段構成
この型で申請書を書く際は、以下の3つのステップを厳守してください。
- 定説の定義
- 現在、何が信じられているか。誰の説か。
- ポイント:ここをあえて「誰もが認める偉大な前提」として持ち上げる。
- 決定的な亀裂
- その定説と矛盾する、あなただけの予備データ。
- ポイント:意見ではなく、動かぬ「現象」を提示する。
- 新秩序
- 亀裂を説明するための新仮説。
- ポイント:定説を「間違い」とするより、「特殊ケースだった」と包摂して乗り越える方がスマート。
3. 具体例の提示:Before & After
では、実際に「革命」を起こす文章へリライトしてみましょう。
ケース1:医学(アルツハイマー病研究)
ただの追加研究:
アルツハイマー病の原因物質としてアミロイドβが知られている。しかし、アミロイドβを除去しても症状が改善しない例がある。本研究では、アミロイドβ以外の要因を探るため、炎症反応に着目する。(分析) 「アミロイド説」という巨人に遠慮して、「以外の要因も探る」と逃げています。これでは独自性が弱いです。
ラグナロク型:
【既存のドグマ】アルツハイマー病は、脳内に蓄積したアミロイドβが神経細胞死を引き起こすという「アミロイド・カスケード仮説」が長年の定説であった。【亀裂】しかし、近年の臨床試験においてアミロイド除去薬の失敗が相次いでいる。さらに申請者は、アミロイド蓄積が始まる前に、特定のグリア細胞が炎症を起こしている決定的な証拠(図1)を掴んだ。【革命】この事実は、アミロイド蓄積は原因ではなく、炎症の結果(結果因子)に過ぎないことを示唆している。本研究は、病因の矢印を「アミロイド→炎症」から「炎症→アミロイド」へと逆転させ、治療戦略を根底から書き換えるものである。
ケース2:歴史学(経済史研究)
詳細化:
江戸時代の農民は重税に苦しんでいたとされる。本研究では、A村の古文書を分析し、当時の困窮の実態を詳細に調査する。(分析) 教科書通りの歴史観(ドグマ)を補強するだけで、新しさがありません。
ラグナロク型:
【既存のドグマ】従来の近世史研究において、江戸期の農民は「生かさぬよう殺さぬよう」搾取されるだけの受動的な存在として描かれてきた(貧農史観)。【亀裂】しかし申請者が発見したA村の「隠し帳簿」には、農民が先物取引を行い、藩の財政にまで貸し付けを行っていた記録が残されていた。彼らは搾取される客体ではなく、経済の主体(投資家)として振る舞っていたのである。【革命】本研究は、この史料に基づき、農民を「被害者」から「戦略的経済人」へと再定義する。これは、「搾取と貧困」という近世農村社会のパラダイムを崩壊させ、新たな経済史像を構築する試みである。
4. まとめ:革命家のセルフチェック
書き上げた独自性の欄を、以下の基準で点検してください。
- 「敵(ドグマ)」は明確か?
- 「多くの研究」「これまでは」といった曖昧な言葉ではなく、「〇〇説」「〇〇仮説」と固有名詞でターゲットを特定してください。
- 「武器(データ)」は鋭いか?
- 定説を覆す根拠が「私はそう思うから」では負けます。「このデータがある以上、定説は成立しない」と言えるだけの予備データ、あるいは論理的矛盾の指摘が必要です。
- 「破壊」で終わっていないか?
- 定説を否定するだけでは、ただのクレーマーです。否定した跡地に、どのような「新しい世界(創造性)」が建設されるのか、未来のビジョンまで語りきってください。
結論:
ラグナロク型の独自性とは、「知の破壊と再生」の物語です。
「教科書が間違っている」と言うのは怖いことです。しかし、その恐怖を乗り越え、データを持って堂々と異を唱える姿こそが、審査員が最も応援したくなる「研究者」の姿なのです。